PM12:00 ペンギン公園
街灯の灯りとベンチが点々と続く散歩道、そもそも閑静な住宅街の真ん中にあるため イベントでもなければこの時間は人気がまったく無い。
ただ、今夜は、決して表に出ることの無い奇妙な「客」を迎えている。

「黒い筒」、「立ち上がった影」そうとしか表現できないものが街灯の力無い光に照らされている。「それ」は、ただ立っているだけで動こうとせず、さらにこちらからは逆光になっていて立体感さえも掴めない。
ただ、黒い「何か」が張りついている様にも見えなくはない。
いったいいつから居るのか、いつまで居るつもりなのか、いや、「それ」が居る限り時間さえ止まって見えるのである。

だが、その静寂はいつまでも続かなかった。

「きやっ!」
茂みの揺れる音と共に黄色い悲鳴と、そしてふたつの人影が現れた。
先客の「影」と対照的に明るく、溌剌とした雰囲気を引き連れて現れたのは木之本桜、かつての「最強の魔術師」の力と技を受け継いだ少女である。
「・・・いたい・・・」
・・・コケて涙目になってはいるが。
「まあ、大丈夫ですか?」と心配そうに声を掛けながらもビデオのファインダーから目を離していない黒髪の少女は大道寺知世、桜の親友である。
・・・そして・・・
「むぐぅ・・・むぅ〜・・・」まだ起き上がっていない桜の胸元からくぐもった呻き声が聞こえ・・・
「あっ!!」慌てて身を起こすとそこから
「さくら〜わいを潰す気か〜・・・」と白い翼を背中から生やした黄色いぬいぐるみが
桜の目の高さまでへろへろと浮かび上がってくる。
「ああっ!!ケロちゃんごめん!!大丈夫だった?」
このぬいぐるみ、名前をケルベロスと言い魔法によって創られた魔獣である。
・・・どう見ても魔獣には見えないが
「なんやと!!」
こら、ナレーションにツッこむんじゃない。
「 ? ケロちゃん?誰と話してるの?」
「おっかしいな〜、なんか悪口言われた様な気がしたんやけど。」
「ほえ?」
「僕に用かい?」
「ほええ〜〜!!」
いったいいつの間に近づいたのか「影」が桜の背後に立っている。
近くから見るとこの「影」の服装は遠目よりさらに「奇妙」であった。
筒の様な帽子とマント、これは遠目からもわかるがマントにも帽子にもリベットやメダルが不規則に付けられ、鎖まで巻かれている。
顔は帽子に半ばまで隠れてはいるがそこから覗く病的なほど白い肌と黒いルージュが見るものに不吉なイメージを与える。
   死神
桜たちの脳裏にそんな単語が浮かぶ。
「あ、あの・・・」
さくらが恐る恐る「影」に声を掛ける。
そのままケロと知世に目を向けて
「なんて言ったらいいんだろ?」
と続け、ケロをまともに墜落させる。
「あのなぁ、さくら」
「だ、だって・・・」
「まったく・・・」
そう言うとケロはふよふよと「影」の目の前まで飛んで行き
「よ。」と
「ケロちゃん!」慌てて制止する桜
「大丈夫やて」
とあくまで軽く返すケロ、しかし表情は言葉ほど余裕が無い。
「この兄ちゃんまっとうな人間ちゃう」
「え?」耳を疑う桜
「どう言う意味でしょう」と知世
そして「影」は。
「わかるのかい?」
「まあな」
そのままケロは「影」から視線を逸らさずに
「ここに剣持った小生意気な小僧来んかったか?ワイらの探しもんはその小僧や、兄ちゃんと事構える気はあらへん。」
それだけ言いケロはくちをつぐむ
沈黙は一瞬だった。
「ふむ・・・」そう言うと「影」はマントから右手を出し人差し指を2,3度回す。
すると・・・
  ガサガサッ
いきなり木々が揺れだし桜たちから5mほど離れた所に人影が落ちる。
それが
ケロの言う「小生意気な小僧」 李小狼
「小狼君!!」慌てて駆け寄ろうとする桜を止めたのは「影」。
「少し離れていた方が良い」そう言うと右手を複雑に動かし何か目に見えないものを巻き取っていく。
その右手をマントの下に戻し桜を放す。
小狼を助け起こす桜を見ながら「影」は
「無傷だしじきに目を覚ます。いきなり斬りかかられたんでね。」
そう言って肩をすくめる。
「ぼくはこれで消えるとしよう。また斬りかかられたくは無いんでね。」
と芝居がかった口調で続ける。
相変わらず表情は読めず、男か女かさえ声からも判別は難しい。
「その少年に伝えておいてくれないかい?
ぼくは捜し物じゃあないって。」
そう言って立ち去ろうとする「影」に桜は
「あの!あなたはいったい!」
その声に「影」は首だけをこちらに向ける。
「ケロちゃんは人間じゃないって、でも、あなたからは魔力を感じないし・・・ ・・・じゃあ、じゃあ、・・・」
そして桜は「影」をまっすぐ見据え
「あなたは、いったい・・・」
「・・・」
その言葉に「影」はこちらに向き直り
「・・・その獣に聞くといい、どうやらぼくの先輩らしい」と表情の抜け落ちた顔をケロに向ける。
そのケロは「影」の視線を真っ向から受け止め
「名前くらいゆうて帰らんかい」

そして

すこしずつ

「影」は桜達から遠ざかり

闇にその身を溶け込ます。

左目を細め、

唇の右端を吊り上げながら。

どちらが早かったのだろうか
「影」が完全に闇に溶けるのと
「ブギーポップ」と言う声が
桜達の耳に届くのとが

確かな事は、
また、
「何か」に巻き込まれつつある、
そんな予感だけである。
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