Angelic layer 外伝

白いレガッタ

ここは、横浜市内を流れる大岡川、もう桜も散ってしまって、季節ではない。葉っぱだけの新緑の季節である。ここである女性が川端を見ていた。彼女の目は鋭く、近くに寄った人間を怖がらせるにはもってこいであった。川の向こう岸からボートが彼女の目をかすめて行った。

何人かで乗っている、大学のレガッタである。そのボートは白かった…。

女性が凝視してみると、先輩か何かが叱咤激励するのが見える…。

大声で叫ぶ部長に対して後輩は只唯々諾々と引き受けるだけであった。

「ただ、叫ぶだけでは駄目なんだな…。」

女性はぼつりと言った。その女性の背中に眼鏡をかけた女性が現れた。何処となく優等生的な

女性である。

「最さん、何を見ているのですか?

眼鏡の女性は目の鋭い女性に尋ねた。

「ただ、私は大学のボート部の練習を見ていただけだ…。」

彼女はいった。何か隠しているような表情をして…。

「病気の妹さんの事ですか。」

川が何も無かった様にボートの通った後と消して行くのである。

「人間の一生もこんなものだろうか、楓…。」

悲しさをたたえた目であった事を楓は確認した。

「そんな事はありませんよ。人生なんてあの白いレガッタのように漕ぎ出して行く物です。

そんな投げ出してしまっては…。」

物腰のやさしい楓が最に厳しい事を最にいった。

彼女とてお手伝いさんと父親が結婚する事があまり認められないのである。彼女のそういう気持を和らげるために、やさしい顔をしているだけなのである。

「人間、そうやって仮面を被って真意を偽るんだな…。」

最は楓の背中にそういう言葉を投げかけたのである。

「ええ。人間とはそういうものですから…。」

彼女は最の問にそう答えた…。

彼女たち二人が去った後、またレガッタが通り過ぎた航跡があるのは誰も知らなかった…。