Angelic layer外伝

「墓地」

さて、あのおばあとりんごが激闘を演じたangelic layer の全国大会から数週間が経った。

ここは地下鉄の蒔田驛。下り電車が来るのを長身の女性が待っていた。

女性の名前は城之内最。レイヤーの人気デウスとして知られている人間である。

ごった返す人込みの中、彼女のはいつものように殺気をたたえた無表情な顔で電車を待っていた。電車が参りますとかかれた電光表示板が点灯する。

それに呼応するように銀色の電車がホームに入ってくる。女性は、何も言わず電車に乗る。

ゴトンゴトンと音を立て動く様はあの悲劇が遠ざかっているようであった。

「瀬戸りんごangelic layer の全国大会優勝。」と電車の中の電光表示板が書かれている。

紛れも無い事実を淡々と機械が表示しているだけだった。

まるで誰かのように…。

「城之内最さんですよね。」

一人の男性が彼女に駆け寄ってきた。年の頃25-6歳ぐらいだろうか。

「あのあなたのファンなんです。サイン下さいませんか?

男は背広を着た立派なサラリーマンである。如何見たって楓のファンといったところだろうか

「本当なんだろうな。」

彼女は訝しがった。

「本当なんです。サイン下さいませんか」

彼はそう懇願した。それはそれでいいのだろうとサインを彼にしてやった。

彼は後部車両に消えていった。

しかし酔狂なものだ。私が好きな男性ファンがいるなんて。そう考えて窓から見える真っ暗な風景を眺めた。

「上大岡、上大岡。」

彼女が降りる駅に来た。ここで乗り換えてある場所に行く。そう。彼女の妹の墓である。

彼女こそ白姫の考案者であり、私をレイヤーにいざなってくれた張本人である。

その驛からバスに乗ってまた20分ぐらいだろうか。

山の中腹にその墓がある。墓地側に備えつけられている柄杓とバケツを借りて彼女の墓にかけて、花を手向ける…。

(皮肉なものだな。妹がもうちょっと生きてくれれば良かったのに。そうであったならば

あのゴーヤーマンのデウスであった老女のようにウィザードを倒し、ランガを苦しめたような事が出来たのにな…。)

彼女はそういう思いが去来していた。