angelic layer 外伝

りんごのライバルはゴーヤー?!

プロローグ「沖縄で…。」

沖繩縣浦添市、ある春の夜一人の老女が、テレビを見ていた。内容は若者が聞くようなポップス番組である。司会者が売れっ子歌手の瀬戸りんごに、あることを聞いていた。

「りんごちゃん。レイヤー関東大会おめでとう」

惜しみない賛辞をその十代半ばぐらいの女性に与えていた。

「うん。決勝戦でのヒカルの猛攻は痛かったね。彼女も強くなってきているし、それに関東大会は

激戦区だからね。」

彼女が所属するangelic layer のブロックの決勝の相手である鈴原みさきとヒカルを賞賛した。

それを聞いていた司会者は、

「うん。でも勝ったのはりんごちゃんなんだから、もっと胸を張ってもいいんじゃないの。」

とは言っては見たものの、

「うん。でも、レイヤーやっている子はみんな友達だからね。」

といった。他の出演者は彼女らしいなと思って聞いていた。その中にはモニターを見入っている老女の住んでいる沖繩出身の歌手も混じっていた。しばらくして、彼女が歌い出した…・。

「こんな騒々しい子がangelic layerの優勝者なんだねえ。私は鈴原みさきちゃんの方がすきさぁ。」

老女は、遠巻きにチャンネルを変えて彼女の歌を聴いていた。しばらくして、コマーシャルが映し出された…。

angelic layer、九州/沖繩大会今ならエントリー間に合います…・。」

という内容のナレーションが画面で成されていた。

「私も、これに出てみるかねぇ。」

夕食の食器の片づけをしている自分の娘に言った。

「お母さん、本当に出るんですか?!

やはり娘は目を丸くしていた。

「うん。ひょっとしたら、関東代表のあの女の子と闘えるかもしれないさあ。テレビとか見ていると、幼稚園児もやっているみたいだと聞くし、私みたいなおばあも出てみると面白いと思うさあ。明日近所の

おもちゃやさんで買ってくるさあ。」

とおばあは不敵な笑みを湛えた。近くで見ていた娘は顔が引き攣っていた。

第一章「りんご」

さて、ここは某テレビ局の収録現場、沖繩出身の芸能人が司会を務めるバラエティー番組が収録を終えていた。りんごもこの番組のレギュラーとして出ているのである。その収録後、司会を務める

その青年は液晶の小さなテレビデオである番組を見ていた、番組を覗き込んだ彼女は、

angelic layer だ。でもこれ關東大会じゃないでしょう。」

と急かすように言った。いつもの彼女だと半ば呆れ顔で青年はこう切り替えした。

「うん。九州/沖繩大会の決勝だよ。この前くにの母親に送ってもらったんだ。芸能関係の

友人がこれに出ているって聞いたら参考に送ってくれてね。」

青年は何か考えているように、画面を巻き戻した…・。もちろんりんごに見せるためにである。

「さあて、angelic layer九州/沖繩大会の決勝、最終のリングにいるのはイーストコーナー、デウス長崎県代表、

全国大会の常連、去年全国大会準優勝の雷帝招来の武闘家、李龍。エンジェルは小狼。

そして、ウェストコーナーにはデウスはこれまでノーマークの新人、東洋の賢人、南島のノロ。沖繩縣代表与那原とみ…。エンジェルはゴーヤーマン。」

アナウンサーが口泡飛ばして叫んでいる。いくつかは分からないが皺を刻んだ老女が、コクピットに座っていた。彼女は余裕の表情で相手方の男性を見ていた。年齢からするとりんごと変らないぐらいの年齢だと彼女は認識した。

「こんなばあさんが…・。」

りんごはおもわず声を発してしまった。

「沖縄の凄いところさ。」

青年は、不敵な笑みを湛えた。

それよりもりんごの度肝を抜いたのはエンジェルの姿格好である。

この事は、後でゆっくり語る事にして、地区大会もそろそろ大詰めである。

中華服を着た、青年のエンジェルが突進していく時に、老女が操るそれは、ふっといなくなった、

「えっ。」

りんごは突然驚いた。一体何が有ったのだろうか。ウィザードの数倍トリッキーな動きである。

と、相手のエンジェルの後ろに回って、おばあのエンジェルの背面投げが決まった。

決着は、驚くべき短時間で決まってしまった。

「一体なんだったの。」

リモコンを持っていた青年にりんごは詰問した。

「あれが、彼女の得意技さー。」

郷土の人間の健闘ぶりに、思わず嬉しそうにほくそえんだ。

「このビデオ君に貸すから、何度も見て攻略を考えるんだね。」

といってデッキからテープを取り出してりんごに渡した。

────その夜…・。

りんごは徹夜でそのビデオを繰り返し見た。

────よくわかんないな。

これが沖縄の魔術なのであろうか。りんごはそれを何回も見ているうちに、東の空がうっすらと明るくなっていた…・。

そして、全国大会の日がやってきた…。

「さあ、今年一番強いエンジェルを決めるangelic layer 全国大会がやってまいりました。どのエンジェルが日本一を決めるのか。勝利の女神は誰に微笑むのか。」

アナウンサーが絶叫し、観客の熱狂と、レーザー光線がたかれていやが上でも気分を盛り立てる。

一回戰出場のデウスが、正面の巨大なパネルに映し出されていた。

關東ブロック代表の自分の顔をりんご自身は確認した。今回の混戦模様だった関東大会が

いやでも、思い出される。決勝のリングで、みさきちのヒカルと死闘の末、今回の全国への

切符を手にしたのだ。観客席では、そんな彼等が応援に来ている。

「りんごさーんがんばってなー。」

みさきちの声が聞こえる。

関西ブロックではあの王二郎とウィザードが出ている。黄色い声が聞こえる。

何人か紹介し終わった後、九州/沖繩ブロック代表の人間が紹介された。

「与那原とみーっ。」

ビデオで見ていた通りの名前である。

かなり小柄な人間である。かえって自分のような若い男女が多いレイヤー大会でひときわ異彩であった。

連日の徹夜で睡魔が襲ってくる頭に琉球的な指笛の音がとても煩く感じたのである。

沖繩らしいや。

彼女が脳裏に浮かんだ言葉である。

さて、りんごは祥子さんの取材を受けていた。

「関東代表として、今回は優勝狙っていますか?

と率直に聞かれた。

「はい。今回の全国大会は、前年に引き続きウィザードが出ていますね。彼も要注意ですが、

私は、九州/沖繩ブロック代表の与那原さんが、気になりますね。」

「あのゴーヤーマンのデウスですか。」

「はい。彼女は、本当にそこ知れない何かを持っているようで…。」

彼女を見ると、自分の中でそこ知れない恐怖か何かを感じるのであった。

いつもの自分が無くなりそうで…・。

さて、祥子は与那原さんの取材に出ていた。

「うん。テレビの歌番組で、あそこにいる姉さんが出るって言うんで私も急遽出てみようと思ったわけさあ。」

与那原氏は、近くにいた瀬戸りんごを見つつ、さらりと言った。帰って自信満々に言わない分だけ、

凄いものが有るのである。

「今回の1回戦では、あの関西代表の三原王二郎さんのウィザードと対戦するんですよね。」

と、祥子は聞いた。

「そうさあ。」

小柄なおばあは、必ず勝つという感じで出場者の控え室まで去っていった。

さて、話はりんごに戻る。彼女は関東大会を勝ち抜いてきた実力で、対戦相手を簡単に

倒した…。彼女にしては、早すぎるほどであった。回りの空気も関東代表のデウスが勝って

という空気が支配していたので、回りも何も言わなかったのである。

「いやっほー。2回戦進出!!

次の対戦への切符を手にしたりんごは勝利の凱歌を上げたのである。

しかし、彼女が対戦していたブースのとなりでは、ウィザードが、渦中のゴーヤーマンと

対戦していた。両者御互い譲らず激しい戦いが展開されている。

その時だった!!

「ん?!

突然いなくなったと思ったたら、ウィザードの後ろに回り込み、このエンジェルの得意技である背面投げが、炸裂した。

その決着はまったく一瞬だった。

「ウィザード敗れる!!まったくの新人、九州/沖繩ブロック代表、沖繩縣出身のゴーヤーマンに敗れる。」

アナウンサーは現状を叙実に伝えていた。

しかし、観客が驚いたのは、ウィザードを破ったエンジェルの形である。緑色のごつごつした物体に、

無表情のドットのような目をしていて、短い手に短い足で、黄色いヘルメットに黄色いマントといった、

人を舐めくさった様な形をしていた…。会場が騒然となったのである。

「なー。」

みさきちが、あまりの妙な形のエンジェルに大きな声を上げた。

「多分、今大会の台風の目ね。」

鳩子がゴーヤーマンを見てそう説明した。

「今回関東代表になっている瀬戸は、こいつに苦戦するだろう。2回戦の抽選組み合わせによっては、

ゴーヤーマンとデウス与那原とみと当たる可能性が有るからだ。老人デウスか…。」

最は、関東大会での対戦相手を評して淡々と解説した。

そして、ここはりんごの控え室。

「ふぅ。今度のカードは誰と当たるんだろう。まさかあのおばあちゃんと当たるのかな…。」

疲れながらもそういった。

その時、控え室に関東大会のデウス達が入ってきた。

「瀬戸さん、今度の2回戦の抽選組み合わせが決まりました。」

楓がその一報を持ってきた。

「誰と。」

りんごは、楓達に急っついた。

「沖縄出身の与那原さんとよ。」

鳩子がそういった。

「ええっ。あの人と…。」

りんごの顔が歪んだ。まったくもってとんでもない人間と当たるものだと思っていたからだ。自分は東北代表のお相撲さんエンジェルと当たるものだと思っていたからだ。デウスがやせぎすな不健康そうな男なのだ…。

「まあ、手を抜いて闘ったら関東大会に出ているデウス達に失礼だ・・。」

最が厳しい言葉を吐いた。

りんごは、迎える対戦相手を考えた。

二章「おばあ」

数分後、レイヤーの全国大会の二回戦が今にも始まろうとしていた。

「ただいまから、angelic layer 二回戦、イーストコーナー、瀬戸りんごエンジェルランガ、

ウェストコーナー、与那原とみエンジェルゴーヤーマン。」

両者割れんばかりの完成の後、ラウンドガールが、現在のラウンドを表示している、

両者、エンジェルをレイヤーに投げ入れ試合が開始した。

angelic fight!!

今回のレイヤーは、アスファルト…・。であった

(この人は一体なんだろうか。まるでアメリカ映画の東洋系の格闘技の達人のような雰囲気をしているな。)

彼女はそう思った。彼女からそういう雰囲気が漂ってくるのは年齢がそうさせるのだろうか。

「姉さん一歩も動かないねえ。それじゃあ私からいくよ。」

あやしげな緑の物体がマントをなびかせて、突進してきた。短い足で突進してくるのは、

いかにも奇妙奇天烈である。お婆はふふと笑っている。

「じゃあわたしもいくからね〜。」

ランガは果敢に攻撃を試みた。ランガの打撃を巧みによけつつ、ゴーヤーマンはすり抜けて、

ドロップキックを浴びせ掛け、徐々にダメージを与えていくのである。

「わーっ。」

ランガは成すすべも無かった。

「多分これで次の戰いいただきかねぇ。」

おばあは不敵な笑みを浮かべた。

「打撃が聞かないなんて。」

りんごは不思議な形状に感嘆した。

「こういうシチュエーションって、自分が見くびって東洋の老人にこてんぱんにのされる白人の若い男という感じなんだよね…。」

とも心の中で考えていた。

「りんごさん気をつけて下さい。全力で戦わないと…。彼女の力を見くびると痛い目を見ますよ。」

ゴーヤーマンと闘って敗れた王二郎が客席から言葉を投げかける。

「分かっているよ。」

りんごは面倒くさそうな声を投げた。

「まじめにいかないなら止めを刺すさあ。」

おばあはにやりと笑って、緑の物体を突撃させた。

その時…。

「りんごー。」

りんごのマネージャーがでかい声を挙げた。

りんごは一瞬我に返って、自分が歌って踊れるアイドルである事を思い出していた。

「おばあっ。じゃあ私も本気を出すからね。」

客席で見ていたみさきちが、

「りんごさんの死の踊りの構えや。」

といった。

「面白い構えだね。姉さんカチャーシーみたいさ。」

と皺だらけの顔がほころんだのである。

ここは、オペレーションルーム。

いっちゃんチーフと、緒形がそれを管理していた。大きなモニターや何かが並ぶところは軍事基地のようである。

「いっちゃんチーフ、ゴーヤーマンに対してランガが本気を出し始めましたね。」

尾形が、モニターを眺めながらそういった。

いっちゃんチーフが、

「あほっ。そんなもんみんでも分かるや無いか。今回のカードangelic layer が、幼稚園児からお年寄りまで出来る事を実証させるには、ええカードや。こういう人が、全国大会に勝ち上がってきた事に異議が有るんや。対戦相手も関東大会の猛者でかつ全国で人気のあるアイドル。広告塔にはもってこいや、マスコミ対策も出来てある。尾形この文章をマスコミ各社に持っていけ。もっていかんと殺すぞ。」

と、部下をけしかけた。尾形はプレスセンターに消えていった。その時、

「兄さん2回戰の籤に細工をしましたね。」

と王二郎が、ドアの片隅でいっちゃんを見た。

「ああ。俺の経営戦略としては、こういうのってねらっていたんや。」

と蜥蜴のような目で睨んだ。

「でも、これで熟年層のレイヤー出場者が出る可能性が沢山有ると思います。」

モニターのランガとゴーヤーマンの熱戦を見ていた。

「あーっと。ランガの死の踊りがゴーヤーマンに決まり始めている。」

アナウンサーが情況を興奮して伝え始めた。さも、關東代表の常勝将軍をたたえるように。

しかし、年の功でゴーヤーマンもブロックしている。

「姉さん、やっぱり凄いねぇ。伊達に人気が有るだけの人間ではないさあ。レイヤーはこうではなくちゃね。」

やられる一方で、余裕の表情のおばあであった。

激しい打撃戰があって、どの位になっただろうか。

「ランガ、ゴーヤーマンを破る!!ランガ3回戰進出。」

アナウンスはそう伝えていた。

「しかしゴーヤーマンよくランガを苦しめましたね。」

王二郎は、いっちゃんチーフにそう語った。

「ええカードや。」

彼の答えであった。

さて、試合が終わって祥子さんのインタビューにおばあが受けていた。

「はーっ。負けちゃったねぇ。しかし私の健闘が沖繩の人、ひいては全国の熟年世代の人に大きな影響を与えたのは、否定できないさあ。」

そうさばさばした表情をしたおばあを先にインタビューを終えたりんごが駆け寄った。

「おばあ面白かったよ。また闘える日を楽しみにしているよ。」

りんごはそう答えた。

「姉さん、最初見た時は、芸能人らしく威張り散らした人だと思っていたけれども、案外いいやつだったさあ。」

と答えた。

「今度、沖縄のおばあの家に行ってもいいかな。コンサートや番組の取材に行った時に、寄るからね。」

と大きな声を出した。

彼女と、番組を一緒にやっている沖繩出身の芸能人の青年は、

「おばあ、惜しかったですね。そして、りんご。やはりお前はやると思っていたよ。ビデオを貸した甲斐が有ったよ。次の試合もがんばれよ。」

といった。

「ああ。」

りんごはそういった時に遮るようにおばあが、

「あんたらできているのかね。」

とチャチャを入れた。

「いっいやあ。」

二人は否定したのだが…・。

そして、一ヶ月が過ぎた…。

「りんごちゃん、レイヤー大会優勝おめでとう。」

テレビの中では、瀬戸りんごが写っていた。

司会者がこう問いを出した。

「りんごちゃんは優勝賞金どうするの?

それに尽いてりんごは、

「今度沖繩に行って、会いたい人がいるので…。」

そのような事を言っていた。

「姉さん、必ず来てねぇ。」

おばあはそういった。

彼女の傍らには瀬戸りんごのニューアルバムが置かれていた。

「そういえばお母さん、この前女子大生にサインをねだられていたわね。」

と同居している娘が答えた。

「うん。そう言えばレコード屋の兄さんが、これを買った時に、少々笑っていたさあ。」

と瀬戸りんごのCDを見せびらかしつつ言った…。

「はあ。」

それを見せられた娘はおばあの孫に当たる息子も聞かないようなアルバムをみて

無言になっていた。