Tittle"知世の日記”

序章「愛媛の小島」

19XX,年、愛媛県草深諸島度田舎島、半農半漁の島である。ある小学生が、海から帰ってきた。瀧田琥珀という少女である。

「今日は、魚を海で捕ってきたよ。」

水着姿で帰ってきた女の子に両親は目を細める。

「こはくっちゃ、いいもんとってきただね。」

「うん。」

まだ、9歳だというのに、天才的な潜水能力。

大収穫。海が彼女の先生だった。彼女にとって島はすべての宇宙である。東京の事をテレビでやっているが

とても怖く写る。

「あんなところにすみたくないよお。」

コンクリートに囲まれた地獄である。

現在中学生の瀧田家の長女は松山市内の高校に進学が決定している。

「私は、高校でたら、大阪か東京に出るんだ。」

レッサーパンダのような顔をした長女の決定だった。

琥珀のすぐしたに翡翠という中学生の女性がいるが、彼女も島をでたがっている。

「おらあ、こげなしまでてえ。」

何時も行っている。松山市内の高校に通っている一番上の兄も、京都の大學に進学が決まっている。

どうして、みんなでていくんだろう。ここが一番快適なんだ。父のみかん農家を手つだいながらそうおもう。

私は、お父さんとお母さんのそばにいるんだ。そして、島の人と結婚する。そう決意していた。

月日は流れていた。彼女は◎◎県▲▲郡友枝町という東京近郊の町に住んでいた。あれほど嫌がっていた東京にいた。彼女のカレンダーは20XX.XX日を表示している。

 

「もう三年生か。」

ふとつぶやく。

松山で暮らしていた高校時代もめまぐるしくて慣れなかった。

「あんな田舎町、なんともないじゃん。」

って秋田市出身の美幸先輩はいうけど。あの松山のような環境で育った人間だからそういう言葉がだせるんだ。

そういえば、教育実習の実習先を決めていないんだ。早く決めなくちゃ。

そう琥珀は思っていた。

教育実習の担当官の研究室。

「瀧田琥珀さん、ここの近所の學校はもう実習を締め切ったからね。はやくしないと。」

藤崎先生は、卑らしい目付きで琥珀をみる。

「地元に帰ってやったほうが良いんじゃないの。」

「地元は遠いですから。」

「とうりょう大學付属中学」の名前をみた。琥珀は、

「ここにしてください」

と、

藤崎先生にいった。電話をかける藤崎先生。

「もしもし、うちの學生がおたくで実習を…。はいはいあはい。」

「瀧田さん、実習良いって、普通はとうりょうだいがくの學生がやる事になっているけれど、担当の教員が融通

きかせて君の実習を認めてくれたよ。」

「本当ですか。」

「うちが公立校というのがよかったんだよ。」

かくして、琥珀を中心とした波乱の絵巻きの始まり始まり。

第一章「銀太先生」

中学教師、須王銀太は、そのとうりょう以外の大学の学生が教育実習を受ける事になった事を

この中学開学以来だと考えていた。

「◎◎県立大學の学生か。顔写真をみると少し頼りない感じがするが。」

しげしげとその顔を見た。

そこに銀太の後輩である。有坂ろみがはいってきた。

「先生、今日で実習終わりですが。」

有坂は、実習表をみせた。

「おまえのことは、知っているから良いとして。今度友枝町にある◎◎県立大學の学生の學生がくるんだよな。」

「へぇ。あの名門の公立大学ですか。ここの學校が開学して初めての事ですよね。」 「うん。それだから

心配なんだよ。つーかーで分からないからね。」

「先輩、これから他校の學生も入れていかなければ行けない時代ですよ。我々の學校もはくがつくと思います。」

「はくかなあ。」

二人でしょうもないことをいいあっていると、RV車が門の側にとまるのがみえる。若い男だ。中学生ぐらいの少女を乗せていく。

「ああ、大道寺か。あの男は彼氏じゃないのか。」

と銀太が窓の側を眺める。

「昨日は、彼女の父親がきたんだよな。とまし村に行った時あったけど、あの人俺にサブミッションを決めていたんだよな。」

「軍関係者では。」

と有坂がいった。

「なんでわかるんだ。」

「はい、付き合っている彼氏がミリタリーマニアだもんで。」

「すごかった。多分自衛隊じゃないだろう。外国のグリーンベレーだったりしてな。」

当てずっぽうで銀太は言った。本職は考古学者なのになんで…。銀太は考える。

「とにかく、有坂、よくがんばったよ。これから、山口帰ってもがんばれよ。」

と後輩を元気付けた。

「大道寺か。」

銀太は自分の教え子のことを考えた。

次の日、銀太は朝のHRで、

「今度から教育実習生の瀧田琥珀先生というひとがくるので、一ヶ月間よろしくお願いします。今日の日直は、幸浦とさつかわだな。」

とのこした。一番前のたいぞうは、

「どこの學校ですか。」

と聞く。

「たしか◎◎県立大學だが、」

この答えにクラス中がざわめいた。ほとんどがとうりょう大の學生が多かったからだ。

「えーっ。あのおたかくとまった友枝町にある學校か。」

「よくうちの學校に実習をうけにきたよな。」

「きっと、地元に帰れなかったのよ。」

などという言葉があった。

「そういえばさ、知世の彼も◎◎県立大學だよね。」

と知世のとなりの小菅がいう。

「小菅さん、あの大學といっても、違う人かもしれないよ。」

と知世。

「小菅さんっていわれるとなれなれしいよ。美加と呼んでくれれば良いのにな。」

と、もう一人の友人、辻堂あいはいう。

「私もまだ辻堂っていわれているんだよね。」

「彼女よそよそしいよね。まだ、小学校時代の友達のことをぐだぐだ考えているらしいし。」

「あれ、その女に“れず”とかいわれたんだよね。」

小菅と辻堂はひそひそ言い合う。彼女たちは考える。

入学したてのころ、4月の下旬だったか。小学校時代のくせで、「~ですわ。」などと高い声ではりあげていた。

公立小出身の彼女たちからは、きわめて異質な存在だった。「友枝小のお高くとまった人間」として、いじめられる寸前までいった。次の日から自分の周囲と同じになってきた。彼女も彼女なりにがんばっているんだろうと認め始めた。先日彼女の家にいったのだが、すごいぼろアパートに父親といっしょに住んでいる

のを確認できた。父親一人、子供一人だ。

父親の、ワイシャツ、ズボン、なにがか、物干し竿にかかっている。無理も無い。今は、梅雨時だからだ。

でも、貧乏すぎる。父親は、キッチンから、お茶を運んでいる。平日なのに、なんでいるんだろう。

小菅と辻堂は不思議がった。

「お父さん何をやっている人なんですか。」

小菅は聞いた。

「考古学者なんだけれど、全然仕事にありつけなくてね。」

と父親。

「そういえば、うちの担任の銀太が知世のお父さん軍格をやっていたといっていたよ。」

と辻堂。

「あれは、私はかつて特殊部隊にいてね。」

とさらっと答える。

「特殊部隊、アメリカのですか。」

と女生徒は聞く。

「いや、イギリスだ。SASというところだ。」

「あっ。うちの兄貴が、“SAS戦闘員という本を読んでいたよ。」

辻堂。

「あれは、私の僚官なんだ。大きな聲ではいえないけれどね。」

知世の父はいっていた。

しかし、本当の父親だろうか。小菅は、辻堂と考えた。

「でも、あの子、本当は大道寺コーポレーションのお嬢様じゃないの。」

と辻堂。

「だとしたら、こんな所にくるのはこわいよね。」

小菅の弁。

「でも、いいお父さんだったよね。ああいうお父さんあこがれちゃうな。」

と辻堂

雨が強く降り出してきた。

「はやくかえらなきゃ。」

「私も。」

しばらくして、知世が教室に入ってきた。

「二人ともいたんだ。一緒に帰るんじゃなかったの。」

「あっ。そうだった。」

三人は、驛のほうに向かっていった。

最寄り駅の方面に、辻堂は、川崎方面、小菅と知世は反対方向の電車に乗る。

お互いの電車が入って来て、彼らは飲み込まれていった。

3人が帰ってから、30分ぐらいだろうか。一つのRV車が校門の前に止まった。

この日は、宿直だった、銀太が、男に校内に入ってきた事を注意した。

「ここは関係者以外立ち入り禁止なのはわかるだろう。」

男に説教を垂れていた。

男は何かを思い出したようで、怒ってでていった。

「ああいうのって瞬間湯沸器っていうんだよな。あの大道寺の兄貴か。まあ、俺も人の事をいえないけれどな。

あの男もとましむらで見せてもらった時、◎◎県立大學だとかいったよな。

今度の実習生も◎◎県立大學だというし。」

あくびが零れてきた。

“兄貴”は怒って自宅のほうに帰って行く。

「知世~あいつ何様だと考えていやがる。俺が送っていくといったくせに!!

車は友枝町方面に驀進中だ。

隣に旧東獨のトラバントのような車がぴったりと着けた。

“兄貴”の携帯がなる。ベイスターズのテーマだ。

「よお、とーやくーん。姫君に逃げられたか。姫様はとっくの昔におかえりだ。今、姫を守る騎士殿から電話があったぞ。」

と女性の声がする。聲の主はトラバント風の車の持ち主だ。

「くっそ~.

“兄貴”はすごいスピードで家のガレージに車を入れた。

トラバントも彼の家の前に止まった。

「とーや君、知世ちゃん、いっしょの車に乗るのを恥ずかしいとか言っていたぞ。控えたほうが良いぞ。」

「美幸先輩黙っていてくださいよ。彼女の彼氏としてやる事だと考えていますが。」

「そうかね。」

とーやは、怒っていた。この人は、俺と知世が付き合うのを邪魔しているんじゃないかと。

でも、タイミング良くあらわれるし、彼女との腐れ縁ももう二年目に突入した。

「あ、俺、お前の家でくっていくわ。」

美幸は、とーやの家に入っていった。

むかしのように、にぎやかな家ではない。シーンとしている。電気を点ける。

朝のままの散らかり様だ。

新聞が散らばっている。

「しっかし、この家は静かだね。親父さんはまた帰らないか。」

「帰らないんですよ。さくらが、おかしくなってからね。」

「あのひと、“スタンド”の研究にこり始めたようだからね。」

と、とーや。

おかしくなり始めたのは、父親ととーやがなき毋の幻影を見始め、

さくらと知世の仲が悪くなり始めたころからか。今年の3月ぐらいか。

「いいのかな、無断にあがって。」

多少は、罪悪感が感じる美幸だ。

「かまいませんよ。美幸先輩だったら、俺とは一番話が合うんだから。」

そうかな。

「もとは、去年お前を追い掛け回していた時代があったろ、あの時の私は、どうかしていたよ。」

と、後輩が作ったユッケビビンバを食べながらいった。

「あの時は先輩異常でしたね。知世がああ言ってくれなければ今ごろ病院行でしたよ。」

「病院行だと。はっきり言うな。私は、知世嬢であればお前とうまく行くと感じていたのだが。」

「…。こじれっぱなしなんですよ。」

「だったな。」

話を逸らすように、とーやが、

「そう言えば先輩のお母さんが来た時にはびっくりしましたよ。」

「怖いお母さんだったろ。あの時でかい声で“こいつが好きだ”といった時にはびっくりだ。」

「今では、笑い話だけれどね。」

と当時を振り返ってしみじみとなる美幸だ。

「今日どこに行っていたんですか。吉野町の平賀家ですか。」

「いや、鳥浜のアウトレットモールだ。いいものがあったんで。」

「服ですか。また男物ですか。」

「いや、リクルートスーツを探しに行ったんだ。」

「もうきまったんでしょ。横浜ベイスターズの球団事務所でしょ。」

「うん。友枝ともお別れだな。横浜に暮らす事になる。」

横浜か。彼女は何故ここにこだわるのだろうか。

とーやは考えた。友枝町の方がいろいろな面で進んでいるのになと考えて、

お茶を飲んだ。

「どうした、とーや。何か。」

「いえなんでもありません。」

否定するとーや。

「分かっているよ。なんで不便な横浜に住むかってことかだろう。あそこには、夢があるよ。やっぱり東京23区は

毒々しいし、友枝町は、お洒落な店があって瀟洒な町だけれど、静かすぎるかな。やっぱ横浜でしょう。」

横浜ねえ。やっぱり、引き付けるものがあるんだな。とーやは考える。

「それから、琥珀先輩教育実習を始めるらしいよ。」

「あいつがか。ほえほえ琥珀がか。」

二人で一抹の不安を考えたよるだった。

ご飯も済み、美幸はかつて、さくらが使っていた部屋に行ってみる。

壁にジオン公国旗がかざられ、反対側のほうには、ギレン総帥の顔写真がかざってある。

「ほーう。大ジオン出版友枝支部だな。こりゃ。なんじゃこりゃ、MS-14Fか。」

かつては、さくらの姿を模したぬいぐるみがあった場所だ。MGのようだな。

大方比嘉ちゃんが作ったんだろ。彼、隠れモデラーだもんな。とーやが頼み込んで。

モニターのほうでは、「ポケットの中の戰爭」の最終話が移っていた。

日本酒を飲みながら、クマのぬいぐるみのような小動物が見ている。

「やっぱ、この作品はやりきれないな。こないなことになってまうなんて、俺は解せん。」

ぬいぐるみ-ケロちゃんはぶつぶついいながら、日本酒のはいったぐい飲みを傾ける。

「お取り込み中済まないがお邪魔するよ。」

美幸は言ってのけた。

「美幸か。びっくりさせんな。合い言葉があるやろ。」

「ジークジオン。」

「ジークジオン。良いひみつ基地だな。」

「こう目立ってしまえばひみつ基地とは言わないやろ。お前がいうように大ジオン出版友枝支局やろ。」

「ですね。」

ぽつりと美幸はとうた。

「しかし、ここは俺の基地兼知世の部屋ってかんじやな。主がかえらんからな。」

「あるじか。まあ、ここの主人と姫様の城って所だな。家全体が。」

美幸は皮肉をいった。

「せやな。あいつは、あぶなっかしくていっしょにいられん。」

とケロちゃん。

「知世ととーやか。“私はあのひとの彼女です”って小娘にいわれた時は腹が立ったが、頭を冷やすには良い契機だった。あいつと距離をおいてよかったよ。私じゃあ知世ちゃんにかなわないよ。かわいいし、品性もあるし、

彼女の顔が好きなんだよな。高校時代の親友えみりゅんみたいで、良いカップルだよ。」

ケロちゃんに思いをぶつけた。

「お前、あいつに未練があるやろ。」

と一言行ったのはケロであった。

「まさか。私の人生は私のものだ。あの男ではない。」

そういって部屋を後にした。

「とーやの奴、知世と溝がでているぞ。」

とひとこと。

銀太と亞梨實の家に視点を移そうと思う。

「どいつも見た顔なんだよな。面白くないな。」

教育実習生の顔写真をみて銀太がつぶやいた。

「ほーんと。どいつもとうりょうの後輩ばーっか。」

亞梨實がうんざりしたように言う。

最後の写真をみて

「瀧田琥珀…。愛媛県草深郡土井仲村出身…。で、◎◎県立大學在学中か。こいつは面白いぞ。で、担当は、1-Bか。って俺のクラスじゃん。面白いかもしれない。」

「へぇ。中学開校してからの快挙というか珍事を俺のクラスか。面白いな。」

亞梨實がピザを食べながら、

「ふーん。あそこの県立大学か。」

と写真表をみながらいった。

「俺も、あそこの教育学部は良いクオリティの學生が排出しているんだ。」

「でも、あそこお高くとまっているよね。殆どが国立大学の付属小、中、高に就職するんだよね。」

「この人は、地元の中学校には忙しくて行けなくて、かつ近所の公立校は締め切っていて、で、うちに潜り込んできたらしい。大学側の藤崎氏が言っていた。」

「そいつ本当に、やる気あるのかな。」

「さあ。」

「ところで亞梨實、この履歴書は何だよ。」

銀太の問いに亞梨實は、

「私が店長をやっている店のバイトの履歴書。こいつ骨が有りそうなんだ。」

比嘉正一と書いてある。履歴書をみる。漁民のような精悍な顔。つい最近まで、沖縄の海で

魚を捕っていたような顔だ。

「お前こいつにほれんたんだろ。お前は若い子が好みだからな。」

と銀太が後ろから茶々を入れる。

「そうねえ、この子は国際的に通ずるルックスをしているよね。あのハンマー投げの厨川監督みたいな顔よね。」

厨川監督といえば、数年前まで、一世を風靡した名選手で、現在もヒーローメーカーとして知られている人間である。

「こんなやつが良い男か。」

銀太は“ヴィッシュ・ドナヒュー”と書かれた履歴書用紙をみた。

さーてと、明日もはやいから寝るか。男と女は互いの寝床に潜った。

“ヴィッシュ・ドナヒュー”ってなんなのだろう。

後で話す。

次の日。HRを済ませた銀太は職員室に瀧田さんの様子を見に行った。

今日面接なのだ。

瀧田琥珀嬢がかしこまって、来客用のソファに座っている。

「瀧田琥珀です。よろしくお願いします。」

「私が担当の須王銀太です。よろしく。」

「あ、あの。ここの學校はもうここしかなくて。」

「しっているよ。君には明日から俺のクラスをお願いしますよ。1-Bだ。」

1-Bですね。」

「そうだ。」

琥珀は緊張のあまり、出来るかどうか疑問に思えてきた。

この子達とうまくやっていけるかどうかと。

琥珀との面接を終わり、帰りのHRで、

「これから、教育実習生がくるので、これから、よろしくお願いします。」

銀太は生徒どもにのべた。

生徒は、禮をすませ、帰っていった。

一人知世が残っている。

「どうした、大道寺。いつもくる彼氏は。」

「今日は来ないんです。今日は父がくるんで。」

あじさいが花瓶に生けてあるそとでは雷雨がふっている。

「ひどい降りだな、俺は帰るか。」

そそくさと、荷物をまとめて帰る銀太。

「じゃあな、大道寺。」

銀太の車が出るかでないかという内にキートンの車が入ってくる。

ぺこぺこ頭を銀太に下げるキートン。

窓の外で知世がため息をついている。

「駄目だよ、キートンさん。」

教室に入ってきたキートンを知世はすこし軽蔑した目で、「堂々とできないの。」言っていた。

ただ笑うだけのキートン。

銀太は、“父親”の顔をみて、再婚だなと感じた。

銀太は、一路自宅への道を急ぎながら、旧友がパーソナリティがするラジオ番組を聞く。

「小石川光希のランダムウォーク。」中学時代から変らない、すこしハスキーな彼女の声。

ゲロ甘い主題歌にのせて、いつもの番組が始まる。

「まず、最初は、富山県のPNスープーシャンさんから

“光希サンこんばんは、私は、中学校時代に運動会の時に応援合戦でこの曲で踊りました。忘れえぬ一曲として

デビー・ギブソンの『Electric youth』をお願いします。この曲、私が小学校時でしたっけ、私はそれほど興味がなかったので覚えていませんが…。じゃあ、デビー・ギブソンの『Electric youth』行ってみましょう。

曲が流れるなか、銀太は光希を考えた。

「こいつは、シンデレラガールだな。なにも決まっていない中でラジオの

パーソナリティに決まってしまうんだもんな。」

感慨むせびながら車を走らせる。

でも、興味がなかったので覚えていませんが…。じゃ許せないよ。

それよりも、今度の教育実習生の女の子の事を考えなきゃ。

そういうことをかんがえながら、車は、自宅に向かっている。

一方、琥珀のアパート、愛媛の実家から電話がかかってきている。

「もしもし、お父さん、私、教育実習決まったの。うん。明日から、えっ、うん。翡翠姉ちゃんからも

メールが来ていたよ。がんばれって。」

よーっしと気合を入れる。

自分の恋人の比嘉にもメールを入れる。

比嘉ちゃんへ、明日から教育実習をします。琥珀。

がんばらなきゃ。島の小学校で先生として帰るんだ。

この前、美幸先輩からもらったお米でライスプティングを作ったんだ。おすそ分けしよっと。

みかんのお礼をしようと。

美幸先輩の弟サンは、水産学部だって…。はまちの養殖とかやるのかな。

あしたから、大丈夫かな。そういえば、とーや君の彼女、私の受けもつクラスなのかな。

私は元気です。島のみんな、応援していてね。

次の日、彼女の実習先の中学校で朝のHRで琥珀は、紹介された。

「これからしばらくの間みんなをうけもつ瀧田琥珀です。◎◎県立大學の3年生です。よろしくお願いします。」

割合後ろの席で彼女をみていた知世はどこかで見ている顔だと思った。

(とーやさんとサークルが同じ人だ。)

知世はそう考えた。

「あの先生あまりにも世間知らずって感じだね。」

小菅が隣の席の知世に言う。

「そんなことはないよ、本当はやさしいひとだとおもうよ。」

と知世。

「あいつどのくらいで根をあげるかかけない。」

と辻堂も言う。

「うーん。一週間じゃない。」

と知世。

「私は一週間も満たないと思う。」

小菅。

教卓の銀太は

「うちの中学迷物、教育実習生いびりがはじまったぞ。どいつも胆が据わった人間なのでけんかまがいのレクリエーションになるところだがな…。」

と腕を組んでいた。

初日は琥珀もある程度はこなすことが出来た。

でもぎこちない。

知世はその先生の不器用な様をみて応援したくなってしまったのである。

彼女がうけもつ科目は国語である。

「…きよくましろきほにはらむ…。」

という感じで今日は詩を声に出して読んでみる.

皆美しい響きだ。

この詩人は誰だっけ。

琥珀は上手く行くと確信していた。

「ちょうど時間になりました。では。」

職員室。

銀太に採点してもらう。

「今日は、どうにかとどおこりなくすんだが、これからだな。」

「あ、はい。」

はたして琥珀の運命は!!

次の日は、席換えがあった。知世は割合前で、となりには、入学仕立てのころからモーションをかけている蓮次

がとなりであった。

「知世、俺が本当にすきなのに気づいてくれないんだよ。」

相変わらずナンパである。

「もう、いいかげんにしてよ。私は彼氏がいるんだから。」

とかえした。

「あいつだろ。よくくる男。あんな奴はやめといたほうが良いぞ。」

「あんたにいわれる筋合いはないでしょ。」

といいかえしたが、蓮次はにやにや笑っている。

一時間目は、数学の時間であった。もっとも、知世は數學は嫌いではない。黒板の問題をときつつ。

教育実習生の琥珀を考える。

「大丈夫かな。」

と。

「大道寺、どうした。」

と數學の平潟先生がいう。

「いえ、何でもありません。」

と知世は言い返した。

彼女、都会の環境に慣れないのだろうか。いつも、こんつめた表情をしている。

「まさか、教育実習の、瀧田先生の事じゃないだろうか。」

數學の授業が終わった時、平潟は知世にたずねる。

「ええ。彼女は、とろくて、愚弄する生徒が多い感じがするんです。まあ、いつもこの學校の伝統といえばおしまいですが。」

「彼女は、とろすぎて実習メニューに追いついていない気がするのだな。今さっきも、須王先生に怒られていたがね。」

さっきまで起っていたことを如実にかたる平潟であった。

職員室で、

「お前の実習の教え方を見ていたら、とろいな。スピーディーに教えられないものかな。」

「できないんです。」

琥珀はなきながら答える。

「できないんだったら、あすから来なくて良いぞ。」

銀太ははっきり言った。

「そんな。」

やっぱり泣きじゃくる琥珀。

突然

「君、関係者以外立ち入り禁止だぞ。」

「そんなの引っぱがしちまったよ。」

長身の女性があらわれた。

「車がえんこしてしまったものでね。」

女性は、銀太と琥珀を見た。

「なんだね。しかし、てっきり光希かと。」

銀太は女性を見た。

「ミキ、私はみゆきでありますが。相川美幸。」

「いったい君は何を始めるつもりかね。」

「私は、この琥珀嬢の先輩でしてね。心配になってきたのでありますよ。」

銀太は、美幸を睨んだ。

「非常識とは思わないのかね。」

銀太はいった。すると、

「変な車が校門の前に止まっていますよ。」

と用務員の人が銀太に向かっていった。

「何っ。」

銀太は車まで駆け込んだ。

車をみて、

「美幸さんの車だな。」

と確信した。

銀太は、えんこしたのか調べてみる。本当にエンコしている。

「ぢつは、家にお金と携帯を忘れてきまして、エンコのことをJAFに電話したいんですよ。電話かしてくれませんかね。」

「ああ。」

半分怒りながら、銀太は言う。

用務員室の電話を女性に貸してやる。

「もしもし、とうりょう付属中学の前なんですけれど、はい車がエンコしましてね。で、年式は197X年式のXX…。」

と電話をした。

しばらくしてJAFが来て、車のトラブルを解決した。

「ありがとうございました。代金は後日払っておきます。」

と気安く言ったあと、整備スタッフが去りし後、

「まったく高いんだよな。」

とぼやいていた。

で、美幸は車にのって帰っていった。

「瀧田さん、彼女、本当に校門の前でエンコしたのだろうか。それともわざとだと思う。」

と銀太は琥珀にたずねた。

「どうでしょう。彼女の車は大學に入学したときから3年間見ていますが、壊れた事はありませんよ。本当にエンコしたんだと思います。」

と琥珀は銀太に答えた。

「本当は先輩をかばっているんじゃないか。」

銀太は琥珀に厳しく言った。

「そうかな。でも、彼女小石川光希に聲がにているよな。俺は中学から大學まで親友だったからな。」

「彼女も、あの番組のファンで。よく光希サンの物まねしますよ。」

「そうだろうな。彼女笑いとかとるひとだろ。テンションが高そうだし。」

「いつも高いですよ。」

「ところで、お前先生やる気あるのか。生徒に舐められっぱなしだ。そろそろ、何日か経つのだから。」

と、銀太は琥珀に言った。

「はい。」

琥珀は、力なく言うだけであった。

琥珀が去りしあと、同じ教育実習生の平沼に、

「私は、瀧田琥珀を育ててみる。」

とぽつりと言った事が、

後年の平沼の日記の中から、散見される。

「先輩、彼女に肩入れし過ぎではないでしょうか。」

と平沼はいった。

「平沼、お前達の行動は、分かるんだ。しかし、彼女は化けるよ。何度も言っているように。」

平沼は、ただ声も無く、銀太を見るだけだった。

さて、知世のクラス。泰造がやっぱり、自分の知識をひけらかして、琥珀がおろおろしていた。

小学校のころの山崎をほうふつとした。もっとも、山崎は、思慮深く謙虚な青年になっていたが。

人間変るものだなと思う。

今日も、泰造は、しったかをいう。

「現在のイベリア半島内戰の原因はアラゴン、カタロニア両王国が存在する

時代にさかのぼるのである。」

柿沼が、

「ちがうんじゃないか、泰造、もっと違うものじゃないのか。」

という。

泰造が

「いや、バルカン半島の内戰と同じで中世にさかのぼるんだよ。」

永遠に彼のしったかは続く。

今日は、初っ端から琥珀の授業だ。

「今日は、オリバー・コシュチューシコの“偉大なる闘い”でしたよね。XXページを開いてください。」

各自教科書を開く。

「“弟は、次男として、父に闘いを繰り広げるのだ。巨大な存在の父に立ち向かうのだ…。」

踊場が、どもりがちに読む。

「おっどジョブ、お前まだるっこしいんだよ。」

泰造がからかう。

琥珀が

「泰造、それは失礼でしょう。」

という。

次は、知世の番である。

「彼は、大いなる大親友をたくさん抱えて、父に反抗を繰り返す。」

流暢な朗読である。

「彼の精神構造は、父という人物への反抗が90%を占めているのではないだろうか。」

と浅丘蓮次が堂々とした朗読をする。

「ったくのこの作家はどうかしているぜ。次男的反逆という言葉に隠されて羨みばっかりじゃないか。

自分が友人がいないから、父親と弟の喧嘩を延々と何十年も書いているんだからな。

かってに想像して、かってに一人相撲を取っていやがる。」

泰造が独り言交じりでいう。

隣の席の中島が

「泰造、独り言だったら、休み時間にでもいいな。」

「なかじ、お前だって毒舌多いよ。」

二人が小競り合いを始めた。

「泰造、中島、立っていなさい。」

琥珀は二人にいった。

すごすごと、廊下に立つ。

「はあ、」

泰造の言葉が漏れる。

琥珀は当初よりは改善されているようだ。

「で、このオリバー・コシュチューシコは、オーストラリア出身の作家でXXXXX年にノーベル文学賞が送られました。その時には、“私の受賞より偉大なる次男の反逆のほうがすばらしいことだ。といったそうです。」

その意味について、小菅が答える。

「多分この人は友人がいなかったので、そのくやしさを文章にぶつけたのだと思います。友人が多かった弟にぶつける様にして。」

琥珀は小菅に向かって、

「良く出来ました。」

といった。

辻堂が、

「やっぱり泰造が言うように羨ましいんだ。その弟とやらはどうなったんだろうねえ。」

「さあ。」

横の知世が相づちを打った。

「きっと、ろくな仕事にありつけられなかったんだろうよ。」

とつけくわえて。

「そこのひとうるさい。」

琥珀が言う。

次の人、と琥珀がさす。

監視役である、国語の先生は。

「なかなかであるな。銀太の奴にいっておくか。」

と。述べる。

休み時間、琥珀は生徒の中に入っていき、

「あっ、私これ好きなの。」

と生徒の持ってきたものに言う。

知世は、琥珀先生やる気になってきたじゃん。どうしたのかな。

と思わずに要られなかった。

知世は鼻歌交じりにオアシスの歌をうたっていたら、

「大道寺さん、」

と蓮次が呼んだ。

「ん。」

と知世。

「これ、オアシスの曲でしょ。俺好きなんだ。」

とコウ・ウラキに似た青年は知世に話し掛けた。

「うん。私はオアシスの大ファンなんだ。」

「えーっ。俺も。」

と蓮次。

「実は、ガンダムも好きなんだ。自分でも、コウ・ウラキに似ていると思っている。」

「うん。似ている。もっとも私はガトーのファンなんだけど。」

「ガトーか。俺は、シーマ様が好きだけれど。」

と蓮次だ。

「シーマ様…。」

知世は一瞬言葉を失った。

「しょうがないじゃん。」

と蓮次。

「ファースト見た事ある。」

「いや、全然。俺はポケットの中の戰爭と0083しか見た事が無いな。」

二人はガンダム談義に変っていた。

知世は蓮次にどんな物を見るか聞いたところ、今はやっているバラエティー番組や、連続ドラマの名前が出てきた。

「私と同じだ。」

「うん。今度のあかつきじんたろうとおぎわらみおの出ているドラマはおもしろいよね。」

と蓮次が新作を薦めるように言う。

「あれでしょ。くらたさなもでている。あかつきさん、ぱっとしなかったけれどこのドラマで俳優開眼だね。」

「そうだね。あのとましむらのさんぱい処分場の事件の弁護士を演じぬいたのはすごかったね。」

「うん。相手方の網干頼毋とか言う弁護士、今度愛媛県の埋め立て問題…。」

蓮次がいいおわならい内に、

「どこの島よ。まさか私の郷里の。」

と琥珀が割って入った。

「ちがいますよ。XO島ですよ。Z諸島の。」

Z諸島か。」

琥珀は肩をなで下ろした。

「あの先生、愛媛の出身なんだ。」

「うん。私の知り合いによると、愛媛県のなんとかとかいう小島だって。」

「ああ。郷里にもしそんな物が出来ちゃうと、いやなものがあるな。」

蓮次はそう言い放った。

「うん。愛媛県はいつも、さんぱい処分場の候補地にされちゃうんだよね。」

いきなり琥珀が言う。

「そうですね…。」

知世らは苦々しくそう思わざるをえなくなるような声で言った。

あと、ある男子のギター同好会の人間の曲に耳を傾け。

「これ、長渕の”Jeep”でしょう。私長渕好きなの。」

彼は、少し面食らっていた。

「可愛い顔して長渕が好きなんですか。」

「そう。兄貴が聞いていて、それでファンになったの。」

「えーっ。俺の一番好きな曲は、“西新宿の親父の歌”だな。」

「あーっ。いいなそれ。」

彼は“西新宿の親父の歌” を弾き始めて歌い始めた。

琥珀もつられて歌っている。

「すごい、琥珀先生。」

「長渕だなんて。」

二人は顔を見合わせた。

あのアニメ聲で、

「やるならいましなねえーっ。」

とうたっている琥珀の姿は、ギャップがあった。

「そういえば、この前、音楽の時間に君が歌っていた”Citi na gCumann”という曲奇麗だったね。

どこで覚えたの。」

と蓮次が知世にいった。

「それは、小学校のころコーラス部にいて、その当時歌ったの。奇麗な曲でしょう。」

いつも、オアシスを聞いて、テニスでは抜群の運動神経をみせる彼女とギャップがあったのだ。

彼女は昔の事を話したがらないからな。

でも、あの歌を歌っている時の彼女は可憐な乙女だった。いいところのお嬢様のようだったな。

「どうしたの。」

「いや、なんでもないよ。」

彼は、大道寺さんに好きですといいたかった。

「琥珀先生が、面白い人だなと思ってね。」

「そうね。あの先生いい先生になるな。」

「そうかな。どじばっかりじゃん。」

「私は分かるな。あの先生子供っぽいところがあるけれど、きっと子供に人気がある先生になるな。」

「ふーん。あの先生が好きなんだ。」

「うん。物腰が柔らかくて純情な人なんだよ。いなかのいもねえちゃんって感じだけれど。」

「実もふたも無いなあ。」

蓮次は苦笑した。

知世の黒髪が太陽の加減で輝いたように見えた。

蓮次は彼女に見とれていた。

「蓮次、どうしたの。」

「いや、なんでも。」

いたずらっぽく彼女はころころと笑う。

「…。今日は一緒に帰らないか。」

蓮次は勇気を持って発言した。

「うん…。いいよ。」

多分彼女には、大学生の彼氏がいたはずだ。なのにこの俺と。

「いやった。」

蓮次は、天にも昇る思いであった。

何か用を思い出したように、知世は席をたち教室を出ていった。

知世の友人の小菅と辻堂が、

「けっこう、やるのね。」

「あの、知世と帰り道かえるのに成功したのは。」

「あいつ、普段は、大学生の彼や彼女の親父さんが、迎えにくるんだけれどね。」

「あの人の親父さんなにやっているひとなんだろうね。」

「なんだか、売れない作家らしいよ。」

「なんかわかる。あのしょぼくれた雰囲気。奥さんに逃げられたって感じだよね。」

「うんうん。」

二人で、かってに作り話を作って、盛り上がっている。

「ところで、大学生の彼氏は。」

「あいつか。なんか、意地悪そうで、好きになれそうも無いよ。」

「うん。あいつ、知世の太股触っていたよ。」

「みたみた。」

「なんで、あんなのと付き合っているんだろうね。」

「けっこう変な人なんだね。」

蓮次は怖くなった。

「そんな大学生の彼から、俺が知世をうばうの。まじ。」

「大丈夫だよ。あいつ、最近知世とうまくいっていなさそうだし。」

「まえ、頻繁に彼のRVがいたけど。今いないよね。」

琥珀は、絵本を読んでいた少女達に混じって、

「あーっ。これ、“なまえのないかいぶつ”でしょう。私チェコの絵本のファンなんだ。」

「奇麗で、素朴な絵本が多いですよね。」

少女の一人は言う。

ハロウィーンの怪物を思わせる生き物の画が書かれている。

次々と人間をくらっていく怪物。

最後には、ヨハンという名前をもらうという筋書きの作品だ。

「グロテスクですよね。瀧田先生、」

女生徒の一人は同意を求めた。

「このグロテスクさがいいのよぉ。」

にこにことして、答えた。

「…。」

彼女たちは絶句した。

「あの先生、可愛い顔して、変なものが好きだよね。」

「うん。彼女が歌っていた変な歌。」

「あっ、それなんだっけ。」

「ぐるぐるぐるぐるヨーグルト白いのぐるぐるヨーグルトビフィズさんがいっぱーい住んでいる。」

「ああ、あれね。」

琥珀の様子を後ろから見ていた小菅と、辻堂は、後ろで噂をしていた。

銀太が彼女たちの話に割って入り、

「多分、松谷みよ子の影響じゃないか。」

といった。

「銀太先生門外漢なのによく知っているね。」

と、辻堂。

「家内が教えてくれたんだ。その松谷みよ子ね。」

と苦し紛れに答えた。

「銀太先生の奥さんは、児童文学をやる人間の様には思わなかったよ。」

銀太は絶句した。

知世が教室に入ってきた。

「大道寺、どうした。」

「気分が悪くなったわけじゃないですけれど。」

と銀太にいわれた。

「本当に何でもないです。」

「大道寺は、本当に謎がおおいからな。」

「はい。」

と銀太とやり取りをする。

蓮次が、

「どうしたの。」

「実はね、蓮次、ちょっと知り合いがいてね。」

「うん。知り合いだって、」

「大学生の。」

でも、大学生の知り合いで思い当たるのは、琥珀が通っている学校の関係者だろう。

「琥珀先生が在籍している學校の人、そう言えば、君の彼氏は、その學校の人間らしいし。」

「そう。その學校の學生。」

「じゃあ、先輩か何かが、ここの校舎の敷地をうろついていたのを発見したんだ。」

「うーん、そうじゃないけれど、」

「えっ、うちの學校の學生だって、とーや、美幸先輩。」

琥珀が聞き耳をたてて知世らのところにくる。

「琥珀先生、そういう人じゃありませんでしたよ。ストーカーと言うかカメラ小僧と言うか。」

そう。あの學校の、ある學生が知世らの學校を盗撮しようとしていたのだ。

知世はみつけて撃退していた。

「よかった、あの人たちがするわけ無いよね。」

琥珀はホット胸をなで下ろした。

その時は、美幸は、アンミラでバイトしてきた。あくびをしながら、

「お向かいにヴィッシュができちゃなあ。」

とぼやきつつ、閑古鳥になった店で、給仕をしていた。

とーやは、講義に出てきたし。

隣にちゃおりがいた。

「ねえ、とーや、先輩とはどうなの。」

余計な事を聞くちゃおりであった。

「うるせえよ。俺の彼女はトモヨってこだよ。」

と、いいつつも。

琥珀はベルが鳴るとそそくさと教室を出ていった。

付録「◎◎県立大學カフェテリア」

その日のランチタイムの時間、

とーやは、クラスメートとカフェテリアで、飯を食べていた。

「ちゃおり、茶道部新部長就任おめでとう。」

とーやが、女性にいった。

このちゃおりは、本名根府川さおりといって、福岡県は嬉野のお茶農家の出身である。

この學校の伝統ある茶道部に入部したものの、理想と程遠い荒廃しきった部であった。

おちゃらけた先輩を尻目に昨年一年間は一人で孤軍奮闘してきた。

「しかし、だよぉ、先輩もお前に白羽の矢をたてたな。」

と川崎出身の朴夢龍が茶々を入れる。

「もよん、私のがんばりを部長も認めてくれたんだよ。」

とちゃおりは胸を張る。

「べにおさんとかいうひとだったよね。あの日とかなりおかしかったよ。」

普段無口で、時折鋭い事をいうケンメリユーザーの、相模原出身のニンジッピが

いう。

「うん。そういう奴等ばっかりだったから、我が學校建学以来の伝統を誇る茶道部を

私が立て直すんだ。」

ちゃおりの意気込みはすごい。

「もしかしたら、これが伝統じゃないか。現時点の茶道部が。」

とニンジッピは鋭くいった。

にらまれるニンジッピ。

「で、茶道部の人間の頭数はそろっているの。」

とーやは言う。

「うん。私が一番目をつけているのは、スー・アーンスランドというスコットランドからの留学生と、金沢の呉服屋のボンボンのかずひこという男かな。基礎が出来ていると言うかねかずひこは。スーは日本文化に興味を持っていて、新副部長のジャスミン・クラクチュフも真面目にやるようになったね。スーのほうが、まじめだよ。」

ちゃおりは、その後もとうとうと新部長になっての意気込みを話し続けた。

突然、でかい声がした。

「ちゃおりー!!

「ジャスミン。」

「ハイ、ガイズ。お食事中のところ、すみませんね。私がジャスミンです。」

陽気なオージー、ジャスミン・クラクチュフが来た。

「あー吃驚した。カルボナーラが鼻から出そうになったよ。」

と朴が腰を抜かしそうになっていた。

「ジャスミン、恥ずかしいから聲を小さくしてよ。また、変な新作作ったの。」

「ちがいまーす。まじめにやっていまーす。スーやおるはににらまれますから。」

とジャスミンは弁解した。

こいつも日本文化を勉強しにここに入部したのに、抹茶のコーラ割りや、シャンパン割りを作って喜んでいる人間だった。

副部長の大役をおおせつかり、まじめにはなったそうだ。

「おるはという人も入ってきたんですね。」

ととーやは言う。

「おるはは、角館の料亭のむすめだから。」

とちゃおりは説明した。

「結構有望かぶが入ってきたね。」

と朴が拍手する。

ジャスミンは、どこかに去っていった。

「話は変るけど、とーや、まだあの中学生の女の子と付き合っているんだ。」

と、サラダを口に運びながら、ちゃおりはいう。

「いけないのかよ。」

「だってさあ、年を考えなよ。そういうのってロリコンというんだよっ。」

「年は関係ないけどな。」

「私だって、ここの町内に2年住んでいるんだから、分かるんだけれど、

かの有名な寺田事件というケースがあるじゃないか。」

「寺田と俺をいっしょにしないでくれ。」

「でも、どう見たって、あの伝説のロリコン寺田と同じだよ。」

「ああ、寺田だろ。」

朴は震えた。

「そういやあ、夜な夜な小学生ぐらいの女の子にいやらしい事をしていたと言うのを見た奴がいると聞いたぜ。」

とニンジッピ。

「そういやあ、お前の彼女、華奢だよな。小学生で通るよ。」

と朴。

「でしょう。美幸先輩のほうがあんたには向いているかもよ。」

とちゃおり。

「で、その彼女中坊君の彼氏がいたりね。」

むっかあああ。

とーやが切れた。

「そんなやつは、この俺が炙り出してやる。」

「お前はほんっとおにろりだな。」

と朴。

狂暴化したとーやをちゃおりがなだめた。

「まあ、いいじゃないか。時間が解決してくれるよ。」

とちゃおりは言う。

「でも、とーや、美幸先輩と言い、ちゃおりといい大人の女の人には何も出来ないんだな。」

とニンジッピが朴に言う。

「ろりこんだから、自分の同じ背丈の女性に手が出ないんだ。」としみじみと朴が言う。

やれやれだぜ。ちゃおりはとーやの性癖をみると笑いたくもなった。

「カフェラッテ、飲む。」

ちゃおりは男性達に言う。

男性達はうなずく。

カフェラッテをみんなで飲む。

Rrr

とーやの携帯がなる。

「とーやだ。うん。お前がバイトし始めたファミレスで、割引だって、へえ、店長がねえ。琥珀先輩も割り引きに乗ってくれたし、それでなんなんだい。」

「サークルの友人かい。」

朴はとーやに言う。

「ああ。今度ヴィッシュが出来たジャン、俺の仲間が招待してくれて安くしてくれると言う話さ。」

「美幸先輩にはいっていないのかい。」

朴は、とーやにいった。

いっていないんだよなあ。

(付録終劇)

さて、とりなおして、本編に写る。

二章「琥珀が本領を出す。」

さて、トモヨのクラスには、雷魚が飼われている。いつ頃からか分からないが、知世が入学する以前から、

いる事だけは確かだ。

「銀太先生が中坊んときからいるんですか。」

「うーん。俺が高校に進学したころからいるんだよな。」

「えっ。」

「うん。覗きにいった時にはこんなに小さかったんだけれどね。」

「そうですか。」

雷魚の奴、我が物顔で泳いでいる。

にくったらしいよ、こいつ。鋭い目がとーやをほうふつとさせる。

へんたいおやじが。銀太先生みたいなひとだったらいいのに。

「おりゃああああ。」

水槽に裏拳をかまそうとする。

「あっ、ごめんなさい。」

知世は謝る。

泰造の奴サボりやがって。

先生と残って掃除をやっているんだぞ。

先生も人がよすぎるよ。

「この前の休み時間、痴漢を撃退したんだって。」

銀太は興味深そうにトモヨに聞く。

「ええ。変態大学生ですけれど、」

少し黙って、

「ただ父の真似事をしただけです。」

知世は恥ずかしそうに言う。

「お父さん、考古学者だったよね。どこでこんな格闘技を覚えたの。」

「イギリスでです。」

SASあたりじゃないのかな。」

げっばれてる。ここはごまかそう。

「そうじゃないでしょうか。父は除隊後、探偵をロンドンでやっていたんですよ。」

「面白そうだなあ。知世のお父さんにイギリスを案内してもらいたいな。」

「父ですか。父といると危険がたくさんあると、姉がいっていました。」

「おねえさん、奇麗な人だろうな。」

銀太は鼻の下を赤くした。

「姉は結婚していますよ。先ごろ日本に帰ってきたんです。」

知世の弁。

銀太はがっくりした。金髪の男といっしょかよと思った。

「どんな人だよ。」

「ベトナム人でした。」

「ベトナム人か。金髪よりはいいな。」

と、銀太

「ベトナム人のどこが悪いんです。姉は、ベトナム人の男のほうが、やさしくて、レディーファーストを心得ていて

、」

銀太は日本の男の沽券にかけて、

「日本男児とて捨てたものではあるまいぞ。」

と胸を張った。

「でも、海外では、日本の男って評判が悪いんですよ。」

「…。」

彼も、その噂は知っている。レディーファーストじゃないし、足がくさいし、会話に乏しいし…。

「で、話は変りますが、亞梨實さんとはどうやってあったんです。」

と知世。

「うーん。あれは、高1のころ女房に引っかけられたんだ。女房も押しの強い人でね。」

「わかるなあ。彼女気が強そうだもん。」

「うん。そうなんだよな。そういう、彼女に俺も引っかかったんだ。」

しみじみと銀太は述懐する。

回想モードに入りまくりだ。

「銀太先生。」

知世は机をもったままかたまっている先生にいった。

「いてっ。」

机の脚が銀太自身の足に踏まれた。

「銀太先生、ぼーっとしているからですよ。」

「うん。」

「亞梨實さんファミレスの店長ですよね。」

「そうだよ。ヴィッシュ・ドナヒューの。」

「新しく出来たあの店の。」

「そういやあ、教育実習の琥珀の彼氏がバイトしていると聞いたな。」

「私もそれ聞きましたよ。」

なんなんだ。不思議な縁だ。

教室の窓は、暗く曇った空が今にも雨が降り出しそうだ。

「先生、かさ持ってきました。」

「俺は、車だからかさは要らないよ。」

「私は今日は父がくるんですよ。もうすこしかな。」

教室の後ろのドアが開く。

「知世ちゃん、おそくなって。」

キートンだ。

「お父さんですか。」

「はい、日本で仕事を物色中です。全然見つからないですね。」

「とうりょう大學のコネで、私がみつけてきましょうか。」

「考えておきますよ。」

「私も、あなたみたいに堅実な先生になりたいのですが。世渡り下手で。」

キートンは笑いながら言う。

「でも、あなたの、考古学上の発見をイギリスの雑誌で発見しましたよ。きっと大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます。須王先生。」

「うえにお嬢さんがいるみたいですね。」

「彼女も、考古学者の卵ですから。」

「お姉さんのためにも父親であるあなたががんばらなきゃ。」

キートンと知世は去っていった。

銀太は彼らの特殊な関係を知ってはいた。けれども、じつの親子に見えてくるのは何故だろうか。

そういえば、彼女の家、テロリストに襲撃されたんだよな。彼が身を挺して知世を守ったんだっけ。

不憫だけれど、でも、入学したての時よりは、のびのびとしているようだ。

銀太が知世と呼ぶ理由としては、大道寺と呼ばれる事を彼女が嫌がっているからだ。

あれで、マスコミが追いたてる事が、こわくなったんだ。彼女の言う「姉」も、あのキートン氏の

実子のことだろう。なんとかならないかなあ。他人事ながらそう考える。

ふーっ。

さて、帰り道に向かうキートンと知世。

「もう。こんなおままごと止めようよ。ともよちゃん。」

キートンが助手席の少女をみてこういう。

「うん。でも、契約では、ボディガードということでしょ。」

「ダニエルに打診してみようか。」

「そうだね。ダニエルさん、私の事信用してくださるから。」

「あっ。信号が青よパパ。」

パパと言っちゃった。

「本当だ知世。」

なんで彼女を呼び捨てなんだ。

車は急発進した。

「ごめんね。いまさっき、パパと言っちゃった。ごめんなさい。」

「私も、知世と呼び捨てにしてしまったよ。」

「どうも不自然な関係だな。」

「そうですよね。」

車は二人が身を潜めているぼろアパートにつく。

向かい側に学生が多く住んでいる瀟洒なアパートがある。

二人が住んでいる場所にいく。

中に入ると、雑然とした中に、キートンのジャケット、物干しには靴下、男性物の下着、女性物の下着、が干してある。壁には知世の憧れのガトー様のポスターが。

「ふーっ。わびしいなあ。」

確かに昔より倍以上に狭い。

それよりも、父親ではなく自分のボディーガードというのが悲しい。

「キートンさん。」

「知世ちゃん。」

「あの…。」

「どうしたんだい。」

「私、大道寺知世じゃなくて、平賀知世になりたい。」

知世の突然の発言に、百合子や太平の顔が浮かんだ。

彼女を引き取る事を親父や百合子はどう思うだろうか。彼女を二人とも可愛がってはくれているし。

「平賀知世か。ええひびきや。俺賛成。」

寝ていたケロちゃんが起きた。

「ケロちゃん。」

二人は聲を合わせた。

「ねーちゃんや、じーちゃんは賛成やろな。俺もこんなままごと遊びよりはええと思うよ。あの環境では知世もええやろ。太平さんが女遊びがすぎるけれど。」

 

 

「うん。」

とキートン。

「でも、太平さんコンスタントに本を書いていて、こ金持ちなんだよね。」

知世。

「あのじーちゃんしぶちんだからね。」

ケロちゃん。

「うん。今度、父さんと百合子にいってみるか。」

電話がキートンの携帯にかかってきた。

「もしもし、キートンさんですか。私ですブランドンです。」

電話の主はそういう。

「ブランドンか久しぶりだね。」

「友枝町では大変でしたね。でも、知世ちゃんでしたっけ守り抜けましたよね。」

「いや、あれは麻生君という人間もいたからこそだよ。彼は、ジェド・ごうし少尉の

最後の弟子だからね。」

「ジェド・ごうし少尉ですか。軍事に疎い私でも知っていますよ。」

「そう。CMAのインストラクターだよ。」

「ブランドン、今回は何だね。」

「いえ、ここはオックスフォードですが。娘さんとその旦那さんといるんですよ。今度来日しようかと

考えていましてね。娘さんたちと話をしていましてね。藤隆さんなんかとも再會したいですね。

そういえば、ここのティエンがいっていましたが、藤隆さん息子さんがいるようですね。」

「ええ。」

「その息子さんのフィアンセが面白い人だと言っていましたが。」

「フィアンセ」

キートンは面食らった。

とーや君にフィアンセがいたっけ。

「で、そのフィアンセはどんな事を。」

「琉球群島ベトナム文化両起源説。」

「はあ。」

「彼の話を聞いていると、なかなか面白そうですね。私は沖繩と言うと基地というイメージしか浮かびませんが。」

キートンは電話を切った。

フィアンセねえ。誰なんだろう。

「美幸さんの事じゃないの。」

美幸さんか。どう見たって、そう見える。

「かもしれないな。しかし、これは彼女に内密にしておこう。」

「そうね。」

ティエンめ推測で言うな。あいつは空想僻が私より強すぎる。

知世はとーやの事を考えた。

あいつ、私の事をセクハラみたいな事をして、何かのはけ口に使っているんだな。

この前は、太股を触ろうとしたし、制服のスカートが短いのをいいことにパンツを見ようとしたり、あいつだめじゃん。

で、美幸さんがくると、何も出来ないくせに。それって人間の屑だわ。

「知世ちゃん、何考えているんだ。」

とキートンが言う。

「何でもない。」

知世はこの事を誰かに相談したかった。

キートンさんじゃ駄目だし、銀太先生はきっと頭に血が上ってとーやと喧嘩を始めるだろう。

誰がいいだろう。

「ちょっと散歩にいっていきます。」

知世はアパートを出た。

向かい側の學生が住んでいるアパート側にいく。アパートの隣には、“セブンレイヴン”というコンビニがある。

ついこの間は“レイヴンストーン”という名前だったのだが。子会社である“レイヴンストーンはのみこまれたのだろう。解体が進む大同寺グループと同じだ。通信部門は、オランダのアナハイム・テレコムに吸収されたし、

軍事転用の可能が有りそうな部門は、南アやイスラエルの軍需メーカーがねらっている。

現在は、ヘイゼル・ミルトン氏が社長を務める部門だけが、大同寺コーポレーションとして残っている。

世界的コングロマリットの社長令嬢として生まれたのかと考えると重圧がある。

やっぱり、私は平賀知世でいたいと考える。

コンビニから、人が出てきた。琥珀である。

「知世ちゃんでしょう。」

「はい。先生が住んでいるアパートのお向かいのぼろアパートに住んでいるんです。」

「あそこか。人が全然住んでいないかとおもった。」

 

「失礼な事を言わないでください。」

「どうしたのこんな時間に。」

「いえ。」

「ぢつは、私の住んでいる、隣の部屋の弘前出身のみかちゃんが男連れ込んで、大騒ぎしているのよ。」

「うるさくてでてきた。」

「うん。ああいう派手好きで、金遣いが荒い人をお嬢様と言うのかな。」

「そうとは、限りませんが。」

知世は否定しようとしたが、昔の自分のやる事なすこと、弘前出身のみかちゃんと

変らないかもしれない。

「そのみかちゃんって。」

「地元の資産家の娘らしいよ。」

「ふーん。」

「多分、上玉を捕まえて、シロガネーゼかコマダムでしょう。」

と琥珀はいった。

琥珀らがアパートに戻るころ、派手な身なりをした、みかちゃんが、数人の男を連れて出ていった。

「どこいくの。」

「ちょっと六本木にね。」

大きな聲を出して出ていった。

みかちゃんをつれてでていった。

みかちゃんの、隣の部屋のシェイマスが、

「やっと出ていったか。」

とはいた。

実は彼、美幸と高校がいっしょで、シェイマスという渾名も、シェイマス・モナハンという

アイルランドのロッカーにているから美幸が命名したものである。

本人は、ショーン・マコノヒーが好きらしいが。現在軽音楽部の部長である。

「琥珀、帰ってきたのか。」

と長い髪と無精ひげの男は言う。

「シェイマス先輩、秋田のご実家には帰らないんですか。」

「俺は、帰らないよ。」

「この子、私が教育実習にいっている中学の女の子。」

「シェイマスさんこんばんは。美幸さんとは高校が同じらしいですよね。」

「うん。そうだな。あいつ遂に硬い仕事に就いたらしいな。」

琥珀をみてそういった。

「そうらしいですよ。」

「それがいいかもな。」

「あいつと友人やってきたけど、夢ばっかりじゃあ食えないよ。」

「気づいたらしいですよ。美幸先輩も。」

シェイマスは、知世をみるなり、

「あんた、大道寺知世に似ているな。」

といった。

「他人の空似です。」

と知世はいった。

「あがっていく、私の部屋。」

部屋にあがるなり、ピンクを基調とした女の子らしい部屋だ。

人形とかたくさん置いてある。

最近は男の子っぽい部屋の方が、好きな知世としては、昔を思い出させた。

「知世ちゃんガンダムすきだったよね。」

琥珀は知世をみていった。

「うん。」

「私の兄貴がガンダムとかマクロスとかみていたよ。」

時計をみて、

「ご飯まだ食べていないの。」

といって冷蔵庫のなかのお惣菜を物色し始めた。

お浸しと、芋のにっころがし、アジの開き。

「このアジの開きはね、うちの島で取れたんだよ。」

おいしい。市販のものよりずっとおいしい。

「先生は、どうして、先生になろうと決めたんですか。」

「本当は島でずっと暮らしたいと思っていたんだけれど、どうもそういう訳にはいかなくなったんだ。」

「で、」

「高校は松山でね。高校の進路希望の時、どういうコースでいこうかと思った時に、もういい加減だったな。

先生になりたいと思ったのは、ただ漠然とだった。」

「そんないいかげんな思いで、先生を始めたんですか。」

「そうなの。」

知世はご飯を食べながら絶句した。

ほんとにいけしゃあしゃあとだ。

「大學に入ってしまえば、面白かったけれどね。」

「先生になることに、希望が見えてきたわけですね。」

「うん。」

でも、琥珀先生は、先生に向いている。アジの開きを食べる琥珀をみてトモヨは思った。

「お父さんがあちらでまっているんじゃないの。」

琥珀はふと呟く。

「あーっ。忘れていた。」

ふと琥珀の、CDラックをみた。

「長渕ですか。」

「うん。」

かなりギャップが。

写真たての人間を見て、

「一番上のお姉さんは、ラジオのパーソナリティの唯川幸さんに似ていますよね。

むかし一世を風靡した。」

「みんな言うのよ。レッサーパンダに似ていると言う人間もいるけれどね。」

レッサーパンダ。狸に似ているあの生き物。

「で、彼女は今、大阪にいるのよ。」

「で、この翡翠姉ちゃんは、今旦那様と名古屋で働いている。」

「お兄さんは、」

「レスリングの監督を広島でやっているんだ。松山より広島の方が近いからね。」

確かにレスリング向きの體だ。

「ところで、あなたは、銀太先生を尊敬していると言ったけれど、どこが彼の魅力なのかな。」

「そうですね。短気で、人の煽てにすぐのって、お人よしな所かしら。」

「それって、フォローになっていない。短所をならべただけだよ。」

こはくは、正論を述べた。

「だから。入学したのころ、あの熱いところに惚れていたんです。」

「私も彼の熱意がへこたれそうな自分を励ましてくれるようで。」

「テニスも銀太先生の影響なんです。」

「銀太先生か。普通の先生だったらさじを投げているところを、私を励ましてくれる。」

「でも、周囲のとうりょうの學生には、そっけないですよね。」

知世は彼女を特別に目をかけている、銀太に不思議なものをかんじた。

「今度聞いてみればいいじゃないの。」

と琥珀。

「あのね、琥珀先生、」

「どうしたの。」

「じつは、とーやの事なんだけれど、」

「とーやがどうかしたの。」

「あいつが、私のパンツを覗こうとしたり、太股を触ろうとしたり、」

「あっ。わたしもみてたよ。あいつ、大きな女の人にはなにもできないんだよね。」

「うん。私が彼の妹の幼なじみで、よく家に来ていたりしたから、」

「以前から、そういう事があったんだ。」

「それで、うちのおねえちゃんには頭が上がらないんだよね。」

「おねえちゃんがいるんだ。」

「もう、25で結婚しているんですよ。」

「今はどこにいるの、」

「イギリスのオックスフォードなんです。父と同じ考古学者をめざしているんです。」

ドアをノックする音が聞こえる。

琥珀がドアを開ける。

キートンだ。

「知世、ここだと思った。」

「すみません、お父さん。私が誘ったばっかりに。」

「いえ、すみません。」

「ご飯が出来ているんですね。うちの知世が、ご厄介になったようで。」

「あがっていきますか。」

「あっ。私もご飯はまだですから。」

「うちの実家で作ったんですよ。」

「ああ、おいしいなあ。」

「そういえば、知世さんにはお姉さんがいるようですね。」

「はい。私と同じ考古学を専攻してましてね。どうなることやら。」

「今度お会いしたいと思っています。」

「多分、今度の休暇の時ですよ。」

「ところで、お父さん、あめふらしってすきですか。」

「あの紫色の生物ですか。私は気持ち悪いですが。」

「私は、好きなんですよ。ぬるぬるしていて。」

「琥珀先生、蛇とか蛙とかすきですよね。」

ともよがいった。

「ええ。私は島で育ったから、そういう物って気持ち悪くもないんですよ。」

「はあ。」

キートンは呆気に取られている。

「実は、私は、潜るの上手いですよ。他の子より上手かったんだ。魚を多く捕った事もあるんですよ。」

「すごいですね。」

彼女のいっている事は本当にそうなのか信憑性に欠ける事が多い。知世は半信半疑で聞いていた。

「お父さんはどう思う。琥珀先生の事。」

「彼女うそがつけないんじゃないの。本当だろうな。」

キートンは答えた。

うん。

琥珀の純粋そうな目はそう言っているように見えた。

「しかし、とーやがうちの知世に手を出しているらしいですが…。私の監督不行き届きで。」

「聞いていらしたんですか。」

琥珀は、一瞬考えて、

「私が何とかしますから。とーやのことでしたら。」

不適に笑っているように見えた。

二人、自分の部屋に帰る。

「とーやがそんな事をしてたとはな。」

キートンは険しい顔でいった。

「昔から、そうだからだ。彼は、私だけではなくて、彼の妹が一番の被害者だから…。」

知世はそうもらした。

次の日、

知世はスカートの下にスパッツを掃いて、登校した。

キートンは朝早く用があると言って出ていった。

同じ位の時間だろうか。琥珀が知世の家の玄関に立っていた。

「おはよう、知世ちゃん。」

「おはようございます、琥珀先生。」

「今日はどうしたんですか。」

「私も寝坊をする方なんだけれど、今日は、早起きしてね。実は今日、車が来ているのよ。」

数分もしただろうか。RV車が、とまった。

見慣れた形の車だったので、知世は怖くなった。

「先輩、なんです。いきなりよびつけて。」

運転手の男は、眠たそうに言う。

「私が助手席に座っても良い。」

男に向かって琥珀はたずねた。

「かまいませんよ。」

後ろの席に知世は潜り込んだ。

「先輩、目的地は、とうりょう大學の付属中学ですか。分かりましたよ。」

男はしょうがないなとおもいつつ先輩の命令に従う。

「とーや、女の子は、幼児体型がすきなの。」

と琥珀は、男に尋ねた。

「ははは。」

「知世ちゃん後ろに乗っているんだよ。」

げっ。

「とーや、私のスカートの下は見ないの。」

琥珀はとーやにいった。

「…。」

「本当は、さあ、知世ちゃんが自分の近くにいたから手を出しかたかったんでしょう。」

「…。」

「そうやって、弱い立場の人間をねらったり、嫌がる事をするのは、いけない事だよ。」

「…。」

「大人の女の人じゃ駄目なんだ。」

「わかりましたよ。」

「とーやさん、今の事百合子さんにばらそうかな。」

「ええーっ。」

百合子さんと聞いて、とーやは心臓が激しくなった。

「百合子さんっておねえちゃんでしょ。」

琥珀が知世に聞いた。彼女は肯いた。

大人の女の人には全然なにもできない彼って何だろうか。

「そういやあ、美幸先輩がCDを忘れていっているらしいんだ。」

「えっ。」

琥珀は、あたりを見回した。

どうみたって、とーやの趣味のCDばかりだ。彼女が好きな舌をかみそうなクラシックの作曲家や、ケルト音楽のCDは、存在しない・

「サザンじゃないな。何だろう。」

「サザンか。」

琥珀は後ろの知世にある事を話し始めた。

「美幸先輩は、いつもカーステレオにサザンをかけて、郷里の日本海を思い出すんだって。

なんでも、彼女の一番下の叔母がずっとサザンをかけていて、カーステレオのBGMはそれだったんだって。」

「で、」

「それで、サザンを聞くと土崎の海を思い出すんだって。」

「サザンに日本海ですか。ミスマッチ。」

知世は恐ろしくなった。

「私は日本海といえば、父親の歌っていた演歌のイメージだけれど。」

「環境とかによるんじゃないですか。思いでと言うものは、消せませんよ。」

とーやがいった。

知世の耳には美幸先輩のフォローのように聞こえた。

「フォローでしょう。」

「いやちがうよ。」とーやは反論した。

「最近、とーやさん変だよ。最近自分と真剣に付き合おうとしないし、自分が気の向いた時に欲望のはけ口にしているような気がするんだよね。この前の遊園地の時の私を富山の従姉妹って美幸さんの従兄弟に

いっていたじゃない。本気にしてたよ。今度あったらどう説明するのよ。」

知世はとーやに思いの方をぶつけた。

「小僧が。」

とーやは、知世にむかってはなった言葉がそれだった。

琥珀は睨んだ。とーやは恐縮して何も出来ない。

「これでしょう。美幸先輩が忘れたのって。」

アルバムが入っている市販のテープだった。トレイントレインか。

「栄光に向かって走るあの列車に乗っていこう~.

知世が歌い出した。

ブルーハーツか。

結構聞いてみると良いじゃないか。

「比嘉ちゃんがハイロウズのファンだった。」

とーやがぼそっといった。

RRR…

Gundamの予告編のテーマが流れている。

とーやだ。

「もしもし、美幸だ。今から城ケ島にこい。」

「城ケ島ですか。」

「そうだよ。今からだと遅くはないだろう。」

「今かかっているのは、“ブルースを蹴飛ばせ”だろう。」

「はい。」

「私が忘れたテープのだ。」

「今、大田区方面に向かっているな。」

「はい。」

「琥珀が助手席に乗っているな。」

美幸は確信した。

とーやは、この人の直感には舌を巻いている。

「乗っていますよ。」

「そいつをおろしたら、城ケ島までこいよ。」

肯くしかないのだ。こわいよ。

とうりょうの校舎までくると、琥珀と知世をおろす。

「じゃあ、あんたは城ケ島までいってきてね。」

「俺は講義があるんですよ。」

「サボっちゃっても良いんじゃないの。」

「美幸さんが待ちくたびれているよ。」

「はいはい。」

とーやの車は去っていった。

「私にかかれば、とーやも小僧だよ。」

「琥珀先生見直しちゃったよ。」

気弱そうに蓮次が知世を待っていた。

琥珀はそそくさと職員室に向かっていった。

「蓮次君おはよう。」

「おはよう、大道寺さん。」

「大道寺さんはやめて。知世と呼んで。」

「じゃあ知世。」

「待っててくれたの。」

「うん。今度一緒に帰ろうか。」

「いいよ。」

知世は微笑んだ。

あかくなる蓮次。

琥珀は今日も飛ばしている。

「えーと、$%ページを開いて。」

「今日、琥珀先生といっしょにきただろ。」

蓮次は、トモヨに聞く。

「うん。」

彼女の伏し目勝ちに屈託無く笑うのって俺弱いんだよな。

教卓の方をみると、しっかりと教師の顔をした女性がいる。

泰造もまじめにやっている。

彼女には転職だろうと考える。

はじめのころの気弱そうな彼女はいない。

今日はつゆどきに珍しく晴れ渡っている。

銀太先生がトラックを生徒と回っている。

彼は、教室の中の彼女を考えていた。

「がんばれよ。」

生徒の一人が、

「先生、教育実習生の彼女気になるんですか。」

「ああ。俺は、あの娘を育て上げなければならないからだ。」

先生も人が良いと言うか。

琥珀のクラスでは、ワーズワスの詩の朗読である。

「兄弟のジムよ、のびのびと生きづき、手足の隅々に生気のみなぎる無邪気な子供、子供に死などどうして分かろう…。」

美しい詩がもれている。

こういう授業はもう無いぐらいみなが勉強に取り組んでいる。

「実は私は、この詩が大好きです。皆さんも作ってみませんか。」

各々が詩をだす。

「蓮次君はまだなんだ。」

知世は蓮次の遅筆をからかう。

ようやくかけたみたいだ。

琥珀は職員室にいる時に、ラジオでとんでもないものを聞いてしまった。

「午後二時のひととき、小石川光希のランダム・ウォーク!!

いつものBGMに合わせて、はじまった。

「この前、応募していた、リスナー代表が特別ゲストが厳正な抽選の結果、友枝町の相川美幸さんに決まりました。」

琥珀はおそろしくなった。まじかよ。きっとはちゃめちゃな番組になるんじゃないかと思った。

城ケ島のレストランで、コーヒーを飲んでいた、美幸ととーやは驚いた。

「私か。」

当たらないものだと思っていたのに。

「先輩、番組を壊さないでください。」

とーやはそういうしかなかった。

「瀧田さん、どうしたの。」

銀太は琥珀をなだめるが、声が出なかった。

「相川美幸さんか。」

銀太はぼそっといいった。

「まあ、大丈夫でしょう。彼女を信じましょう。」

銀太は、琥珀を安心させようとした。

いつものガールズポップがラジオから流れている。

さて、この悪夢の状況はあとで、話す事にする。

さて、知世が蓮次と学校から帰る途上、ある書店に立ち寄った。

キートンがいた。で、琥珀もいた。

琥珀は、キートンに

「お父さん、こんばんは。」

と一礼した。

「琥珀さん。今日は何をお探しですか。」

「ええ、チェコの絵本を探しているんですよ。」

「どんな本なんですか。」

「“もうひとつのにんぎょひめ”という作品です。」

「たしか、ぺトル・ミレルとか言う作家が、執筆した作品ですよね。」

「ええ、多分ビロード革命後に書かれた作品ですよ。」

「これですよね。」

蓮次が物をさした。

素朴な人魚が書かれた絵本を出した。

「そう。これ。」

「そういえば、“なまえのないかいぶつ”を持っていましたよね。」

と知世が詮索する。

「他にも、“へいわのかみさま”と“くちのおおきなひと、めのおおきなひと”をもっているよ。」

と琥珀はスノビッシュに説明する。

「それだけ、好きなんですね。この本は数年前に起きたヨハン事件が“なまえのないかいぶつ”の内容にもとずいておきたのを覚えていますよね。」

とキートンが琥珀をみた。

「ええ、覚えています。真相は闇の中ですけれど。」

「.…。」

知世は、“もうひとつのにんぎょひめ”の内容をみて驚いた。

「何かの暗示みたいだ。」

「もう一冊あったから、私のものと、あなたのものを買いましょう。」

琥珀は、二冊分の本の料金を払った。

知世は、プレゼントコーナーで包んでもらった。

「とうさん、今日は、電車で帰るから。」

といって、書店をあとにした。

「やれやれ。」

キートンは首を竦めた。

「で、考古学の本買えました。」

琥珀はキートンに述べる。

「はい。」

分厚い本をみせた。

電車に飛び乗る知世と蓮次。

電車の中には、見た顔の人間がいた。チャーミングな青年だ。

部活の帰りらしく、三郎と話をしている。

青年は、知世と目が合った。

「知世」

青年は、昔馴染みの顔をみつつも、隣の男性も一瞥した。

「この人誰。」

「私の、ボーイフレンド。」

「えっ。」

目を丸くしたのは、青年の方だった。レズビアンのはずだ。

蓮次は青年が知世の幼なじみと気づいた。

「私だって、もう昔のようにレズ子さんじゃないから。」

「なかなか良い男だな。」

青年は蓮次をみた。

彼は、知世の持っているラッピング用紙の包み紙をみた。

「なんだいそれ、」

「うん。これをさくらにわたしてほしいの。仲直りの気持ちだって事を。」

「彼女がこれを喜んでくれる保証はないけれども俺が彼女に渡しておく。」

青年は絵本の入った包み紙を知世から手渡された。

「じゃあな。」

彼は去っていった。

「彼、幼なじみか。」

蓮次はガールフレンドに尋ねる。

「うん。彼が上手くとりなしてくれれば良いけれど。」

(Das ende)