CCS外伝逆襲の藤隆

 

平賀百合子の考古学教室

 

その9”ドキドキ=フライデー“

 

さて、知世は家から帰って来て原当麻さんが姉に言っていた事を思い出して

 

いた。

 

「彼女は一体何なのか…・。」

 

笑いながらも顔が引き攣り知世は唯々諾々と小鉢に盛られた料理を食べていた。

 

「私は、気に入っているから…。」

 

普段から自分が敵だと思い込んでいる人間の顔を考えていた。

 

特に嫌なのは、知世の中学の恩師の女房である…。

 

自分の事を悉く否定して自分の稼ぎがいい事を自慢している…。

 

あんな女男におもねっているに違いないと思っているのである、

 

そんな事を言うと妹に否定される事は目に見えているのであるが…。

 

そんな事を考えながら飯を食べていた。

 

「姉ちゃん。今度の職場はうまく行っているそうだね。」

 

気ばかり強くて、全然大した事が無い姉を皮肉った目で見た。

 

プライドだけ高くて結局は男の世話になっているという女と見られているのは

 

姉に対して屈辱的であるが、事実だと認めて欲しい目である。

 

「…・そんな目で見ないで知世。私も最近そう思っているのよ。みんなが私の事を

 

悪く言うのは多分自分に帰ってくる因果応報じゃないかしら…・。

 

百合子は今までの事をそう考えていた…。

 

「私はどうも男の人はお父さんかおじいちゃんを基準に見てしまうだよね。

 

それしかいなかったから…。あなたみたいに男の子と机をならべて生活しなかったか

らね多分あんただったら女子校は駄目だったかもしれないな…・。あなたの事が少々羨ま

しいと思ったな…。私の学校にも男の子がいないからどうも空気が淀んでいて嫌だと

思っている人がいたな。妙なしきたりが有るのも変だといっていたしね。私はそれを

感じなかったけれども大学に行って見てそれを実感したわ…。」

 

と、声を絞り出した。

 

 

 

「俺は、君を見ていて少々不幸になったから声を掛けただけだよ…。」

 

ティエンは横目で百合子を見た。

 

「お姉ちゃんが成長したと思った事は、自分のお母さんの事を言わなくなった事・・・。」

 

 

知世も、茶碗の米粒をつまみながら姉を見た。

 

「あなたが来たからかな…。現状に満足している顔を見て…。」

 

この妹がいるから家庭がどうにか立ち直っていると思っている今日このごろだった。

 

 

知世は思い出したように、

 

「原当麻さんの事なんだけれども、彼女は使い物になると思う?彼女

 

気に入っているわ。だからさ…・」

 

「うん。」

 

百合子はそう頷いた。

 

キートンは黙々と飯を食べていた。

 

上の娘がやっと上手く行くようになったからかもしれない。

 

「私がイギリスに行った時に一番さびしかったのはお父さんじゃないのかな…・。

 

一緒に暮らしたかったと思っていたじゃ…。」

 

百合子は素っ頓狂に昔の事を持ち出したのである。

 

「そうだろうね。私はさびしかったから、多分ここにいる知世を引き取ったのかもし

れない。私の話を熱心に聞いている彼女を見て百合子の姿を見たからなんだ。」

 

彼も淡々とした表情で、これまでの事を語っていた。

 

「私もお父さんが大道寺家の住み込みのボディーガードを始めた時に、私の事を百合子って呼んでいた時期が有ったな。」

知世は笑いながら答えたのである。

ティエンは

 

「今何と言いましたか。」とキートンに聞いた。

その事を英語で話すと、

 

ティエンは、

 

「義父さんそんな事が有ったですか。」

とくすくす笑っていた。

知世は、

 

「パパにもそういう時期が合ったのよ。」

 

と悪がきを見る母親のような表情をした。

 

「私はロンドンで初めて知世と会った時、私を信用してくれるのも気に入ったし

ね。」

 

キートンはぼそっと行った。

 

知世は「そう言えばあの時に、そのみが、あなたはお父さんがおすきならばお父さんと暮ら

したらと,皮肉を言っていたな。それが本当になっちゃったなって思うわ…。」

 

と味噌汁を啜った。

 

「櫻さんだっけ。あの娘どうしたっけ。」

 

百合子も思い出すようにみんなを見た。

 

「藤隆さんの話によると、新婚旅行から帰ってきたみたいだよ。」

 

知世は人事のように言った。

 

また何日かして、クリスマスが近くなった横浜の

mm21での事である。町中おもちゃのような感じになり人工的な緑の柊が飾られ、

イルミネーションが飾られていた。クリスチャンでもないのにみんな賑やかなのはこの国の性癖なのかもしれない。その時に2人の男女が街を歩いていた。一人は長い髪に気の強そうな顔をしていて、

もう一人は、何処となく幼さを持ちながら整った顔をしている。

「もうすぐクリスマスだね。」

女性は言った。

 

「苺鈴、そうだな…。」

 

男性もそう言った…。

 

彼の頭の中には昔さくらとデートした時を思い出していた。両人とも不器用なカップ

ルだったなあって苦笑していた。

 

でも今は新しい彼女をエスコートしながら、リラックスをしている。さくらはもう結婚したらしいと聞く。人間の心は変る物だと今更ながら思う。知世だってさ

くらを切り捨てたのだから、俺も苺鈴で

いいと思う。みんなのためにクリスマスプレゼントを探しに今苺鈴と一緒に来

ている。苺鈴は俺の他に誰にあげるのか?

ランドマークタワーの中のビルのなかの店を探している苺鈴を小狼は見た。

 

 

 

「うん。考えているのは、もとすわさんとちいさん夫婦、みさきちさんとこたろう

ちゃん夫婦、いっちゃんチーフと、しゅうこさん夫婦と…・あっ。独身代表でこの前

のツアースタッフの蘇刈林子ちゃん…。今親友同士なんだ…。神保さんとすももちゃ

んもいたな…・。」

 

と苺鈴は無邪気に答えた。

 

「芸能関係の人ばっかりだな…。」

 

小狼は少々あきれたのである。しかし小狼は黙々とクリスマスプレゼント選びをして

いるのである。

 

「文句いいながら、小狼君はプレゼント選んでいるな…・。」

 

苺鈴は自分の恋人に感心している…。

 

「俺は、友人の知世にはあげるかな…。他にクアラルンプールにいる俺の親友かな

…。」

 

小狼は指を折りながらそういう事を考えていた。

 

すると…。

 

「あっ。真珠ミルクティーだ。買っていかない?

 

小狼や苺鈴から見れば懐かしい中国風の屋台である。原色の看板に繁體字の中文でメ

ニューが書かれている。一目で気に入って買おうと思ったのは苺鈴だ。

 

「あ、俺要らないけれども…。」

 

小狼は恐縮した。それを見た苺鈴は、

 

「大丈夫だよ。私と一緒に半分こね…。」

 

といって買って来た。

 

「俺はいいよ…。」

 

小狼は又も躊躇したが、結局苺鈴に押し切られて飲むかなという気持になったのであ

る。

 

まず、口をつけたのは苺鈴だった。次に小狼が口をつけた…・。

 

あはははは…・。間接キスだ…・。」

 

苺鈴は大笑いをした。

 

大きな声にみんなが苺鈴の方を見ていたのである。その時に屋台のの影から見覚えの

ある女性が小狼の目には確認できた。ショートボブの髪にたれ目がちの大きな目をし

たその女性は、

 

風采の上がらない若い男性を連れていた。

 

「本当だねぇ。間接キスだ…・。」女性は苦笑していた。

 

「知世、来ていただ…・。」

 

小狼は旧友の出現に面食らっていた。

 

「だぁれ。あの男の人…・。」

 

苺鈴は知世が連れていた男性を見た。

 

「あの、苺鈴この人は私の彼。

とっても出不精で私が誘わないと外に出ない子なの。

私がこうやって誘わないと出てこない朝岡蓮次君です。

蓮次君、彼女は…。」

 

蓮次は思い出したように、

 

「李苺鈴だろ。」

 

といった。

 

「そう。」

 

苺鈴は頷いた。

 

「私の彼ってへなちょこだと思ったでしょう。でもこうやって彼を連れて回るもの女性の醍醐味だと思うの、頼り甲斐のある男性よりは彼みたいなのがいいかなってね。」

知世はそう言った。

 

 

 

 

「ううん。あんたには似合いの彼だと思うよ。本当に。あんたはいい男よりはこういうのの方がずっといいよ。男があんたといると疲れそうだよ…。」

 

 

苺鈴はそういって首を振りながら答えた。

 

そして、4人はそうやって話しているうちに外に出た。

 

もう日はとっぷり暮れて当たりは真っ暗である。夜になって海から吹く浜風が妙に心地よい…・。

知世達がいる反対側の方向のビルのイルミネーションが

まばゆく光っている。

彼等のような恋人達がそこでデートに興じていた。

「小狼、苺鈴の方があんた向きじゃあなかったかしら。桜だったらあんたよりも天ちゃんとかいう

男の子よりも、ほら名前はそういえば、樋口湖太郎君とか言う子のほうが似合っていたかもね。」

知世はそう言った…・。

小狼は、

「湖太郎も、あいつを捨てたな。結局は天ちゃんが幸せにできたのかも知れないな・・・。」

と独り言のようにも聞こえる言葉を冬の空に向かって吐いた・・・。

つづく