CCS外伝逆襲の藤隆

平賀百合子の考古学教室

3話「秘密をチェキ」

ここは、平賀百合子が勤務している大学である。実は彼女の父親の友人である木之本藤隆氏の勤務する学校でもある。藤隆さんの専攻はケルト文明。クロウ・リードの本もケルトの関係で手に入れた物だと考えられるのである。イギリスの学校を教授と喧嘩してつい先日首になった彼女は、父であるキートン氏の口利きで友人の職場を紹介してもらったのである。

百合子さんの講義であるが、余り人気の無い講義らしくて聴いている学生はまばらである。

余談であるが、百合子さんも専攻はケルトである。そのまばらな聞いている人間の中でも

階段教室の一番前の席で聞いている女子学生である。彼女の容姿は、髪は腰まであり、

さらさらした髪質で、或る面芯の強さのような物を感じられるのである。

その中で階段教室の中で、一人熱心にノートを写している女子学生がいた。

さて、そうこうしていると、講義の時間の終了が来た。学生のめいめいがぞろぞろと、

教室から退出して行く。女子学生は百合子に質問しようとして待っていたのである。

「あれ、あなたはよく見るわね。」

百合子は女子学生に尋ねた。

「はい。先生の講義は面白いですよ。少々わかりにくいと思うのですが、先生の情熱が好きなんですよ。」

女子学生はきっぱりとそう言った。

「そうかしら。私は最近は自分は世間知らずのお嬢様だなって良く思うのよ。妹と違って、男性の気持を余り理解できないと思うし…。」

百合子は考えた。中高一貫の女子校でずっと女性ばかりの空気の中で育って、私は妹のように

がさつで下品な男性のいい部分を見ないで育ったからな…。妹もいくら名門の中高で育ったとは言え、男の子と一緒に机をならべいたんだよね。私は根が頑固だし、男性のマイナス面を見るとどうも、ひっぱたきたくなるんだよね…。それが原因で…。

考え事をしている時に、女子学生が、

「先生は純粋なんですね。

といった。

「先生は、女子校で育ったから考えが純粋培養なんですよ。世間知らずだから情熱があるんじゃないですか。先生の講義態度にはそれが見えるんですよ。」

女子学生はそう言った。

「私は、妹が少々羨ましいと考える時があるのよ。男友達と上手く出来るところが…。

私自身男友達は沢山いるけれども、どうも男性にアレルギーがあるのよ。妹の方がそういう方面は聡いから…。」

百合子は溜め息を吐いた。

「先生、男性アレルギーだったら、今からでも直せますよ。御主人もいるって聞きましたから。」

女子学生は、そういった。

百合子は自分に興味が或るこの女子学生に興味を持った。

自分は中学や高校の時は祖父や父を心配しながら、うまくやっていた。そして、憧れのオックスフォード大学に入学したのである。しかし、男性と机をならべた事のない自分としては、男性の粗暴な部分ばかりが目に付いて、事或る毎に衝突した。自分の夫であるティエンや、夫と共通の男友達であるレニー=イップなどは心の広い人間であったが、

大方の男はどうも百合子に不信感を抱く結果となった。男性に嫌われてそうなこわ持ての

フェミニスト学者でさえも男性に支持されているのに自分は何でなんだろうと悩んだ事が合った。ケンブリッジに留学していた、コロラド出身のエイミー=トンプソンという百合子達の友人は、「女子校出身者によくある男性不信症」といっていた。

私はどうもこの30近くなって悩む事が多くなったのである。

「先生、考古学に尽いて先生の意見がお聞きしたいので先生の研究室に伺っても宜しいでしょうか。」

と女子学生はそう言った。階段教室を出ると、そのまま近くのエレベーターを押した。

自動ドアが開き、二人は狭い箱に滑り込んだ…。

ランプが番号を点呼しながら百合子の研究室のあるフロアまで運んで行った。

「先生のご一家は御主人と息子さんの他にどんな方がいらっしゃられますか?

女子学生は尋ねた。

百合子は、

「えーと…。あなたの名前はなんていうんだっけ。いつも前の席に座っているのを見るけれども…。」

と女性に聞いた。

「私の名前は…。原当麻っていうんですよ松江出身で、実は平賀先生の御本を読んで考古学を志したんですよ。そうしたら偶然先生がここで教鞭を取っておられるんで、

講義をとったんですよ。」

原当麻は目を輝かせて話した。

「そう。私はここは父の友人の口利きで紹介してもらったのよ。父も日本では有名じゃないんだけれども、欧米では有名な考古学者でね。ここの学校の木之本藤隆先生と旧来の付きあいな訳。それで前の職場を首になったのを契機にここで働かせてもらっているわけ。」

百合子は淡々と話した。

エレベーターが百合子の研究室のあるフロアに止まった。

二人は、合成樹脂の床とドアの連なる無機質な通路を通りながら、『平賀研究室』と書かれたドアを開けた。隣の研究室は電気が点っていなかったのに、ここでは電気が点っていた。

「あれ?

百合子はドアを開けた…・・。

「うん。百合子あがっていたぞ。」

彼女の父親であるキートンがソファに座っていて、妹もそこにいた。

「あ、お姉ちゃん。隣の人は誰だ?

妹は年齢からして、自分と変らない年齢の女性がいるのを見た。恐らくはここの学生ではと思った。

「うん。私の講義を取っている学生の原当麻さん。で、ここにいるのは私の父の平賀・太一・キートンと妹の平賀知世です。現在父はClamp学園の大学部で教鞭を執っていて、

妹も某国立大学で小学校の教師になる勉強をしているの。」

原当麻は、

「立派な御家庭なんですね。」

と改めて原当麻は考えたのである。

「祖父はどこかに出ていて、夫は息子と家で留守番かな。」

自分の近況を改めて説明した。原当麻はこの研究室に飾ってある和布のティディベアに目がいった。

「先生、こんなのが趣味なんですか。可愛いですね。矢絣のやつが私は気に入りました。」

といった。

「あ、いいけれども許可は妹にとってね。」

講義の書類を整理しながら、百合子は原当麻を横目で睨んだ。それを見た知世は、

「あ、構いませんよ。姉はこういうの興味が無いですから。私が趣味でつくって持ってきただけですから。」

とさらりと言ってのけた。

「原当麻さんは、娘の講義は面白いですか。今ここにいる下の子と職場が長続きするか噂していたんですよ。」

と苦笑して行った。

原当麻は、

「大丈夫ですよ。私が先生の発掘の手助けをしますから先生の助手として私を雇ってもらいたいですね。」

とキートンと知世に説明した。二人で苦笑しつつ見ていた。

「まあ、彼女は私に賛同してくれた第一号だから・・。」

百合子は明るさ半分暗さ半分の顔になっていた。

原当麻は、

「そういえば先生と妹さんはお顔が似ていらっしゃりませんね。どうしてなんでしょうか。」

と不思議がった。

それを見たキートンは、

「そうですね。私が今の職場に勤め始めた頃…。知世が14歳の時に私が引き取ったんですよ。つまりは養女なんですよ。」

といった。

「複雑な家庭なんですね。」

原当麻は興味がなさそうであった。

「あの、原当麻さん。妹の身からいいますが、姉がもしもの事があったらあなたが支えてあげて下さい。今義兄より同性のあなたの方が頼りになりそうです。」

知世が言った。

原当麻は分かりましたと言う顔をして黙って頷いた。

父親と妹はこの押し掛け弟子に苦笑はしていた。

かんかんかんと研究室につめよる音がした…。

「おみ〜。」

若い女性の声がした…。

知世にとっては聞き覚えのある声だった。

知世はうんざりしたような顔をした。

ドアを強引に開け女性は度の強そうな眼鏡の裏から…。

「今日一緒に帰るっていってたじゃないのよ。」

と大声をだした。知世は原当麻の方向を見た。

「この人あんたの親友なんだ。」

剣呑そうにさくらに尋ねた。

「ごめんさくら。考古学のことで先生に相談したかったから」

と説明していた。

「ああ、そうなら私に言ってよね。」

百合子は、

「あの、ここは私の研究室なんだからノックして入ってね。」

といった。さくらはそれに恐縮していた。知世は原当麻を見て、

「あの、また原当麻さん。この女性は昔の私の親友なんですが、あなたは彼女を大切にして下さいね。」と語った。まるで不肖の娘を見る母親の様にである。

「はい。先生ともども平賀家の方にはお世話になると思うので…。」と

知世に深々と禮をした…。

「ええ。おみはいい親友よ。」

さくらはそういったのである。原当麻はそのまま先生に手を振りながら研究室を出て行った。彼女は親友の嬉しそうな顔を見て

「どうしたの。」

とたずねた。

「うん。今度お父さんの上司の学部長のお孫さんとお見合いをするんだけれども。その人が凄くかっいいの。」

顔を赤らめながら親友に尋ねた。

「どんな感じの?

原当麻はさくらにその男性の容姿を質問した。

「うん。自分の家のお父さんに良く似たかっこいい人なの。小狼よりずっとかっこいいよ。」

うきうきしている事が瞬時に原当麻に見て取れたのである。しかし彼女にはさくらの父親はどうも分からないのである。

「私あなたのお父さんって平賀先生の就職を斡旋してくれた人ぐらいしか見当が付かないな。」

原当麻は疑問交じりに言った。そのお見合い相手をかっこいい人なんだなと思うだけであった。ジュード=ロウみたいな人なのだろうと考えた。

「ねえ。この前まで付き合っていた李小狼の事なんだけれども、彼が今交際している相手って、臺灣の歌手の李苺鈴らしいよ。」

「しってる。」

さくらはそう答えるのみであった。何も過去として思い出す事も無いかのような顔でだ。

「そのお見合い相手がかっこよくても、昔から付き合っていた人なんでしょ。それを取り返さなくてもいいの。」

原当麻はさくらに懇願した。

「いいんだって。御伽噺はもうおしまいなんだって…。」

彼女は只単に、エレベーターへの道を急いでいた。

さて、時間は少し、さかのぼるがスコットランドである。

美幸がメーラーを睨めっこしている時に、四葉が秘密を見てしまった。

「ほう秘密をチェキデス。あの李苺鈴が付き合っているのは李小狼という香港出身の男性なんですか…。ふーん」

美幸は腹を立てながら、

「見るんじゃないよ。見てしまった事は内緒であるが、くれぐれもとーやにはないしょだ…。」

美幸はそう報道管制を敷いた。

とーやはとーやで…。

「まあ、さくらがお見合いするのはめでたいなあ。」

といっていた。

また、藤隆さんの大学である。また百合子の研究室である。

知世は百合子に、

「まあ、あの原当麻さん。大切にした方がいいよ。私も彼女を気に入ってしまったし。

今のさくらに彼女は親友として必要な感じがするんだよね。だから彼女を信用してあげてね。」

といった。

「うん。」

百合子は何処となくうれしそうであった。

また場面は変るが、さくらと原当麻である。

「帰り何処かで食べて行かない。」

さくらが親友の原当麻にそう尋ねる。

「今日はいいよ。明日あんたのお見合いなんでしょ、多分お見合いの席で何か食べるんじゃないの。」といった。

「私は、あのお見合い相手の人気になるんだよね。うまく結婚できたらいいな。」

もう。さくらは上の空である。

「なんだか、きな臭いんだよね。」

エレベーターが下降する中で原当麻は考えていた。

つづく