CCS外伝逆襲の藤隆

平賀百合子の考古学教室

2話「数日前…・。」

数日前、用事で渋谷に出かけた時に、私は木之本桜とであった。木之本は、妙に浮ついた表情をしていた。私は彼女に思わず話し掛けた。

「木之本、妙に嬉しそうだけれどどうしたの?」と。

さくらは私に、

「ある人を待っているの.」といった。私はてっきり小狼だと思って

「小狼でも待っているの?」と彼女に質問した。

さくらは、飲んでいた紙コップのコーラを飲み干して、黙って首を横に振った。一体誰なんだろうかと私は疑問に思うだけであった。

店内のごった返す中で時間は無情に過ぎて行く。

「ねぇ。知世?今日は蓮次君とか有村さんなんかと一緒じゃないの?

と彼女は私に問い掛けた。そばにいる自分の質問がさくらにとって

余計なお世話だといわんばかりに…。

「ううん。私だって一人で行動したい時だってあるのよ。蓮次だって有村だって彼等の用事や事情があるのよ。いつもいつも一緒じゃないのよ。」

人間孤獨が好きな人間やもてない人間だっているんだ。みんな徒党を組んで歩くわけじゃないのよと言いたかったが、口篭もった。

「あ、私が今付き合っている人ね。お父さんの大学の学部長さんの

お孫さんに当たる人なの。今度彼とお見合いする事になるんだ。」

と眼鏡の奥の目はそう訴えた。

「ああ、そうなの…。」

私は言葉を汚すと同時にある言葉がよぎったのである。

政略結婚…・。

もし私が世が世ならば、私も意志に染まわぬ相手と結婚されていた可能性が大きいのである。大方わくでら家の人間と結婚を予定されていた可能性が大きいのであるが…・。

私がボーッと考えていた矢先にさくらが、

「あんたは私と小狼とくっつけようと考えているけれども、あんたが彼が好きだからじゃない。」

と核心を突く言葉を吐きつつ、新しい思い人を待っていた。

自動ドアが開いて現れた彼は、長身で何処となく雪兎さん+藤隆さん÷2といった雰囲気の、私たちより2~3歳程年上の男性であった。

この男であれば家柄と親が取り決めた仲と言い、とーやさんだって

ぐうのねもでない…・。尤も、とうの彼は相川美幸さんの旦那というかビジネスパートナーとして世界を飛びまわっている。

現在スコットランドに美幸さんととーやさんの御互いの大学が

同じ出身の四葉という女性と取材旅行に出かけていて、

お見合いの話はメールか何かで知る事になる上に、

余りさくらの事は気になってはいないらしい。

私知世を妹代わりに考えている現在としてはどうって事も無い

のだろう。でも小狼よりは彼の方がいいのではと観葉植物の

植木鉢の影から考えたのである。

彼等がいなくなってから私はお店を出た…。

それから数日後…。

MM21に買い物に出かけた時に私は小狼とスタバに入った。

彼も中華街か何かに用事があったのだろうと考えた。

「小狼、奇遇だねぇ。」

と彼の肩を叩いた。

「ああ、知世か。お前は家が近所だったな。」

と彼は言い返した。

私はコーヒーを飲みながら…。

「誰を待っているの?

私は彼に先日あった、さくらがお見合いをすると言う事実を言わなかった。

「ああ。俺の新しい彼女。台湾人なんだ。李苺鈴という名前の」

りーめいりん?!初めて聞く名前に私は絶句した。彼も新しい恋人がいたなんて?!

「いつからそのめいりんとか言う女性と付き合い始めたの?!

私は小狼に聞いた。

「ほんの一ヶ月前なんだ…。今度結婚の約束を香港の母上やイギリスにいる一番上の姉上夫婦に報告するつもりなんだ。」

彼はさらりといった。

そういう事となると小狼の一番上の姉貴の旦那で、姉夫婦の共通の友人であるレニー=イップも知っているのかと考えた。

「ああ。そういえばお前の姉上と義兄上もそれは知っているぞ。レニーが教えたのだろう・・。」

図星だ…。

「ねぇ。さくらとは縒りは戻せないの?!

小狼は黙って首を振った。

「…。俺は本当の事を言うと子供の頃のままごと遊びが大人になってから通用しないと思うんだ。お前はさくらが好きだからそういう事が言えるんじゃないのか。いがみ合っていてもお前はさくらが好きそうだな…。」

そういって彼は黙って店を出て行った。自動ドア越しに見えた、私の子供の頃のような長い髪をして、ジーンズとカットソー姿の女性が

めいりんだろうか…。彼女は遅いじゃないのとか彼に言っているのだろうか…。

さくらよりはあのめいりんのほうが私はいいと思っているし・・。

私はしゃおらんのさくらの事を考えた時の過去の人という顔が目に付いて離れない。子供の頃のままごと遊びが通用しないんだなって。

私は黙って家路に就いた…。

一方、話は変るが、スコットランド共和國の首都エディンバラ…。

私木之本とーやは、ある一角のpubで、ビールを飲んでいた。

傍らに、ビジネスパートナーの相川美幸氏と、同行した経済アナリストの高座四葉氏がいた…。

「そういえば、日本のおやぢさんから、自分の学校の学部長さんの

お孫さんとさくらがお見合い結婚する事になったらしいな。」

泥水のようなビターを飲みながら美幸氏が私に尋ねる。

「ああ。」

そっけない答えを出す・・。私は李小狼よりはその男と結婚する方が

自分の精神衛生上いいとは思う。でも顔が分からないのでどうも…。

「百合子さんや知世ちゃんの話によると、小狼のやつさくらを諦めた

みたいだしね。」

とまた泥水のようなビターをすすった。

私はどうも複雑な感じがするのである。さくらとの結婚を認めてやりたい気持があったからである。すんなり諦めるとは…。出来過ぎている。横でバグパイプが物悲しい文部省唱歌のようなスコットランド民謡を奏で始めた。

私はさくらが大人になった事に内心安心し小狼じゃない事に安心していた…・。

「とーやくん本当は嬉しいでしょ。」

四葉氏が割り込むように、私にそういう…・。

こうさくらが他の人間と結婚するなんて拍子抜けだ。

父親が決めた事ならなおさらだ。

哀愁を誘うバグパイプがなおさら煩く鳴る。

私はこれで良いと自分に言い聞かせた。

美幸氏が横から覗く。

「…。知世ちゃんにお土産いるかメールを出すぞとーや。」

彼女が自分を正気に戻した。

Pubのモニターでは、青天白日旗とセントアンドリュース旗が誇らしげにnyの國聯本部にかかっているのが、見受けられた。

「時代も変ったな…・。」

美幸氏がしみじみとビターを啜る。

さて、舞台はまた横浜に移る。

朝早く講義に合わせて自宅を足早に出る。

父も後れて私の後に着いてくる。

「昔のままごとか…・。」

電車は八王子から小金井方面に向かう時に人間を飲み込みながらすし詰めである。いつもの事であるが、中吊り広告が目に行ってしまうのである。いつもの事ながら低俗週刊誌の衝撃的な見出しが多い。

その中でも、とんでもない記事が目に入った…。

『アジアの歌姫李苺鈴、香港出身の大学生と熱愛発覚!!

と書かれていた。この大勢の人がいる中で大きな声が出せるはずが無いのである。私は大声を出したいのを我慢しながら自分が降りる国立大学の最寄り駅まで押し黙っていた。

C駅、C駅、」

車内アナウンスが鳴る中、私は降りたのである。

その日の午前中の講義は、全然上の空であった…。

小狼の交際相手ってあの李苺鈴だったの…。

臺灣出身の中高生向けのアイドル歌手としてデビューして、最近は大人の女性として、同じ位の女性に人気のある歌手として今も人気を誇っている歌手である…。

あの娘…。そういえば…。李苺鈴だ…。私は伝統的な中國的な髪型と、

ミニのチャイナドレスのステージ衣装のイメージだったから、ストレートロングの髪にジーンズのいでたちの女性を彼女だと思わなかったのである。

女性と言う物はすぐ変る物だな…。人の事は言えないのであるが

私はそう思った。ボーッとしていた矢先に私の親友の有村が

「平賀さん、なにぼーッとしていたのさ。そういえば私も珍しく

小説を読んでさ、凄く笑っちゃったよ。」

と苦笑していた。彼女が手にしていたのは新書サイズのハーレクインロマンスの『ガジュマルの樹の下で』という題名の本であった。

普通ハーレクインといえばヨーロッパかアメリカが舞台で、ギリシャ人のいけめんが出てくるのが相場であるが、何故ガジュマルなのか

私が住んでいるバーチャルワールドが、不思議な世界だからだろうと

考える。それに作者の趣味であろう。

「この小説がどうしたの…。」

私は表紙をみて絶句した。表紙に描かれているのは有村そっくりの女性と我サークルの2年生の黒一点の下溝ケンヂに似ているのである。

「笑っちゃうでしょ。主人公の女性が私そっくりで、相手役が下溝にそっくりなんだもん。内容も主人公の故郷の島でであった運命の初恋の人と結ばれるという話なんだけれども、そんなに上手く行かないと思うよ。それに傑作なのが、ヒロインの兄貴が何処となく私のバイト先の店長そっくりでそいつが楽して儲ける事ばっかり考えているの。

内の店長とは大違いなんだ。額に汗して働くのがお金が転がり込んで

来る早道と口癖みたいに言っている店長とは大違いだなって…。」

私はシビアにこういった…。

「凄い御伽噺だね。下溝と有村か…。なんか嫌だ…。それにあんたのバイト先の店長はどういうかな。」

有村は、

「多分、激怒するか大笑いして誤魔化すと思う…。大島の古仁屋という小さな町から出て来て、『よろこんで』チェーンのフランチャイズの店長で10年近くがんばって来ている苦労人だからね…。」

私はそれを聞いていて、御伽噺はおとぎばなしなのである。

と考えた。小学校時代の幼い恋愛ごっこが上手くいく分けないと電車の中の中吊り広告をみて思ったのである。

私はその有村が読んでいた小説の続きを話してくれるようにねだった。

「それで、その小説の男女はどうなったの。大島といえば鹿兒嶋縣だよね。同郷のよしみで合格したような物なんじゃないのバイト…。」

といった。

「うん。小説の方は父親がひょろひょろした男でうちのマッチョな

軍人である私の父とは大違いだなって思ったな。それにバイトの方は

同郷のよしみで合格したのは当りだよ。それにバイト仲間の高知出身の花穂ちゃんという子がいるんだけれども、私は下溝と彼女が

同じ高知出身ということで一緒になればいいのになと思っているんだ。」

と有村はすらすらと言葉に出した。

「確かにうまく行って欲しいけれども、下溝はなんだか目の鋭いきつめの女医の卵と付き合っていなかった。」

私は現状の解説をした。

「うん。そいつもヒロインの恋のライバルとして登場するんだよね」

といった。

「こう聞いていると出来の悪い悪夢のような作品だね。ちょっと本を見せてよ。」

私は有村が読んでいた本を見た。著者は竹之内亞里亞と書かれていた。

著者近影の写真を見るとサイケ柄の服を着たきつそうな女性であった。

「この人頭大丈夫なのかな…。」

有村も思わず口に出してしまった…。

「そういえばこいつもこの小説に出てくるんじゃないかな?

私は口悪く言った。

「出てくる。この作品では黒ずくめの服を着た女性なのよ。」

と苦笑して言った。

私は絶句してしまった。こんな悪夢があってもいいのだろうか。

出てこないのはせいぜい私ぐらいではないだろうか…・。

それと私の家族ぐらいであろうか。

現実を考えると御伽噺はあってはならないのかもしれない。

「そういえば、有村さん。あの木之本桜がお見合いをするらしいんですよ。相手は自分の父親の学部長みたいなんだよね。」

私は昼食のスパゲッティを丸めながら有村に言った。

「ええっ。」

有村は驚きを隠さずにいた…。

私も顔を知っているあの女の子がと言う顔で…。

次で姉の仕事ぶりと姉の押し掛け弟子と、木之本の話を語る…。

それにスコットランドで何か動きがあったようである。

つづく