CCS逆襲の藤隆

平賀百合子の考古學教室

その10happy wedding

ここは年が明けた友枝町。

知世は、また藤隆のところに父親の原稿を届けに来ていた。

「知世さん、月峯神社にはお参りしましたか。」

藤隆が笑いながらそう答えた。

「ええ。ここに来る行きがけに教育実習が成功します様にと…・。」

藤隆は

「今年は教育実習が有るんですか。立派な小学校の先生になって下さい。」

と目を細めた。

知世は玄関に女物の靴が有るのに気付いた。

「原当麻さんが来ていらしてますのね。でももう片方の靴はさくらですか…。」

と藤隆に聞いた。

「はい。御主人とはうまく行ってないようですので、良く実家に戻ってくるんです。で、それを心配した原当麻さんが遊びに来るんです。」

珍しく藤隆が神妙な顔になった。

「彼女ですか。」

さくらの親友としては最適な人間だと思っている。

ドアを開けると、叫び声が聞こえた。

「おみのいじわる…。」

それはさくらの声だった。

「さくらさあ。御主人とうまく行かないのはあんたに責任が有るんだよ。」

強い口調で親友を責めていたのは原当麻である。

さくらは顔をぐじゃぐじゃにして泣いていた。

「全部悪いのはあいつだよ…。」

それを聞いていた知世は…。

「原当麻さんの言う通りだよ。親友だからそういう事を言うんだよ。私だって有村にそういう事を言われたんだよ。親友ってそうやって御互いを変えて欲しいと思ったから、きつい口調でも言うんだよ。私もそういう事を彼女に言う事も有るし…。」

と彼女も言った。

知世はなんとなくお見合いの席での怪しい人影も気になっていた。もしかしてさくらの主人の不倫相手だろうかと…・。

さくらはもう泣き止んでいた。

原当麻は…。

「知世さん…・。」

と言った。彼女自身さくらの旦那様に不倫相手がいると思っていたからである。

そして知世の存在がその昔のさくらの親友ではないかと思っていた。

「あなたはさくらの昔の親友ですか。」

原当麻はそう知世に聞いた。そして小声で

「もし貴方が彼女の昔の親友であったならば、お聞きしますが、もしかしたらさくらの旦那様に不倫相手が存在するかも知れませんね。」

と深刻な顔になっていた。

知世は、

「私は昔彼女を恋愛の対象に考えていただけですよ。私自身今現在は

彼女は自分の一番ではないと悟ったので、さくらの事は何とも思っていません。貴方にはお耳に痛いですが、私も彼女のお見合いの席に同行しましたが、

怪しい人影が見えました。」

とさりげなく言った。

原当麻は、

「まったく残酷な仕打ちですね。昔好きだったならばなにか出来ると思った私が馬鹿だった。」

と知世への軽蔑の念を露にした。

その時知世は話題を換えて、

「原当麻さんはまた今度もうちに来るの?姉だったら今度スコットランドのシェトランド諸島に発掘に行くみたいだよ。」

といって帰って行った。

原当麻は頷いた。そして最後に

「そうですか。分かりました。貴方のさくらへの残酷な仕打ちはなんとなく分かる気がします。だって貴方にとってはさくらと言う女性は必要ではなくて、いや逆に貴方の運命を狂わす女性のようにも思えるのです。私もこの先彼女と付き合って運命を狂わされる気がします…・。」

と知世に言い残した。

その後のさくらに待ち受ける運命を予見しているみたいだった。

それから、数年後、小狼と苺鈴は華燭の典を上げた。苺鈴は純白の花嫁衣裳ではなくて彼女に良く似合っている赤いウェディングドレスを着ていた。

参加していた知世は彼女らしいと思って苦笑してしまった。

また数年が経った香港のマンションでの事…・。朝彼女は目玉焼きを作りながら、主人が起きるのを待っていた。目覚ましのけたたましい音が鳴り彼がようやく起きたのである。

「おはよう。おねぼうさん。」

苺鈴は悪戯っぽく笑うとテーブルに食物をセットした。

窓からは香港島のビル街が見えている。

ビル街を見ながら小狼はベッドから起き出した。

快晴の天気だ。

さて、今小狼は苺鈴と結婚しているようであるが、昔好きだった木之本桜はどうなったのであろうか?

彼女自身東北連邦の長州軍事進攻に反対する過激派の自爆テロに巻き込まれて20歳の生涯を閉じた。彼女の死体はテロの捜査をしていた関東軍の兵士によると、バラバラになってミンチより酷かったと聞く。

そう言えば先日知世の甥がサンドハーストの陸軍士官学校に入学したと言う事を電話口で話していたのを思い出す。

木之本桜は、父親が薦めていた男性とお見合いをしていたが、そのお見合い相手は、好きな人がいたらしくなんとそれは藤隆の助手の女性だったらしい。

色々考えながら、小狼は歯を磨いていた。その時…。

「小狼、子供たちを起こして下さいな。」

と苺鈴の声が響いた。折角の良い気分になっていたのを彼女の声で打ち消されたなって思っていた。

このように彼は苺鈴の尻には敷かれているものの、今の生活は俺には楽しいと思っている。

現在苺鈴は芸能界は引退したものの、レコード会社に勤めいて、

新人発掘に血道を上げていて上海に出かけるプロジェクトを抱えている。

小狼の稼ぎより段違いに良いのだ。

そんな訳で子供を起こした小狼は、歯ブラシなどをさせる…・。

子供たちは歯ブラシをして服を手早く着替えてそのまま学校に出ていった。

「上海一緒に行くよね…。」

苺鈴はそう促した。

「ああ。」

小狼は、苦笑していた。